You are here

CompactRIOで構築した錢高組のIoTシステム、トンネル工事の安全管理と省エネを同時に実現

錢高組は1705年創業の老舗企業である。江戸時代より宮大工の棟梁を代々家業としてきたことを起源とする同社は、現在、庁舎、オフィスビル、商業施設などを対象とする建築事業と、トンネル、橋梁、ダムなどを対象とする土木事業を柱として成長を続けている。その錢高組が、高松自動車道 志度トンネルの工事現場にまったく新たなシステムを試験的に適用した。それは、IoT(Internet of Things)を活用し、坑内で働く作業員の安全性を高めつつ、坑内で使用される電力量を削減するというものである。これまでにない機能を実現した同システムだが、その開発はわずか3ヶ月のうちに完了したという。このような先進的な機能と短期間での開発を実現できた理由は何だったのか。システムを共同開発した錢高組の白石 雅嗣氏とイー・アイ・ソルの平澤 啓氏にお話を伺った。

工事現場が抱える2つの課題

錢高組の白石 雅嗣氏は、同社技術本部 技術研究所に所属する主任研究員である。トンネルの施工技術について幅広く研究を行っている同氏だが、現在は2つの課題に注目して取り組みを行っている。2つの課題とは、トンネル工事の現場における「安全性の向上」と「消費電力の削減」である。

錢高組 技術本部 技術研究所 主任研究員の白石 雅嗣氏(左) イー・アイ・ソル 営業部 部長の平澤 啓氏(右)

山岳トンネルの工事では非常に多くの電力を消費する。施工用の機械や工事用の照明、換気ファンなど多くの電気機器が昼夜通して使用されるからである。ところが、電力の消費量については、一般的に厳密に管理されているとは言えない。「電力会社から明細書が送られてきたときに、どれくらいの電力を消費していたのかがわかる」(白石氏)ことが少なくないという。場合によっては、最大需要電力を抑えるために、デマンド監視装置が導入されることもある。ただ、その場合も契約電力を超過しないよう警報を受け取ったり、電力の総消費量を把握したりすることが可能になるだけだ。消費電力の削減に取り組むためには、何にどれだけの電力が使われているのかという内訳を把握しなければならない。つまり、消費電力の可視化が必須だということである。

一方、安全管理はどのように行われているのだろうか。実は、トンネル工事の現場では、現在でも「名札」による入坑管理が行われていることが少なくない。つまり、表、裏がそれぞれ赤、白に塗られた名札を坑道の入口に用意しておき、入坑時に各自がそれを裏返すという方法である。名札を裏返すのを誰かが忘れてしまえば、適切な管理が行われていない状態に陥ってしまうことになる。

「トンネル工事における安全性を向上すると同時に、消費電力も削減することはできないか」――。このような発想の下、白石氏は1つのコンセプトをまとめた。それは、「山岳トンネルの工事現場において、坑内のどこに誰がいるのかを明確にし、坑内でどのような作業が行われているのかを正確に把握して、全作業員の安全を維持したまま、電気設備を細かく制御して無駄な電力を削減する」というものである。

「工事現場のIT化」は初の試み

錢高組 技術本部 技術研究所 主任研究員 白石 雅嗣氏

コンセプトは固まったものの、白石氏にはシステム開発に向けていくつかの懸念があった。「頭の中で構想は完成しているのだが、それをトンネル工事現場という特殊な環境で、現実のネットワークシステムとして構築できるのかという不安があった」(白石氏)という。「現場に設置しても壊れない堅牢なハードウェアは存在するのか、それらは作業環境の変化に応じて問題なく移動させることはできるのか、RFIDによる人や車両の検知は正しく行えるのか。当社としては初めて取り組む事柄が多いシステムだったので、協力を仰げるパートナー企業が必要だと考えた」と白石氏は語る。そのパートナーとして選ばれたのがイー・アイ・ソルである。

白石氏からシステムの構想と要件を提示されたイー・アイ・ソルは、それに応えるためにさまざまな提案を行った。そのなかで、システムを具現化するための手段として、ナショナルインスツルメンツ(NI)の製品を提案した。具体的には、ソフトウェアプラットフォームとしてNI LabVIEWを使用し、ハードウェアプラットフォームとしてはNI CompactRIOを使用してシステムを構築することになった。

IoTを活用したシステム

図1に示したのが、錢高組とイー・アイ・ソルが共同で開発した安全対策・省エネ制御システム「TUNNEL EYE」の概念図である。このシステムは、IoTを活用することにより、山岳トンネルの工事における安全管理のための機能と消費電力を削減するための機能を同時に提供する。「IoTの活用ということは特に意識していなかった。安全性の向上と消費電力の削減というニーズを具現化した結果、でき上がったものがIoTだったというイメージだ」(白石氏)という。2016年3月の時点で、このシステムは、錢高組による高松自動車道 志度トンネルの工事現場に試験的に導入されている。

図1. 開発したシステムの概念図

このシステムは、工事現場の事務所などに設置されたサーバと、IPアドレスが割り当てられた複数の制御端末で構成される(図2)。制御端末としてはCompactRIOを使用し、必要な機能はLabVIEWによって開発した。各制御端末は、入坑者や工事車両を検知するためのRFIDリーダ、粉塵(ふんじん)や可燃性ガスなどの濃度を測定するための濃度計、工事用の照明/換気ファン/トンネル掘削機械の稼働状態を監視するための電力計などを備えている。各端末は、制御の対象となる電気機器や100 mごとに配備されている分電盤に取り付けられ、サーバとはネットワークで結ばれている。

図2. CompactRIOによって構成した制御端末

イー・アイ・ソル 営業部 部長 平澤 啓氏

各制御端末は、入坑者や車両の位置、各種ガスの濃度などのデータを取得し、それらをサーバに送信する。サーバ側では受信したデータの分析/処理を行い、結果に応じて照明や換気ファンを制御するための指示を端末に送信する。各種の測定データと電気機器とを関連づけ、IoTで相互通信を行って自動的に消費電力を削減するための制御を行う仕組みだ。イー・アイ・ソル 営業部 部長の平澤 啓氏は「CompactRIOを利用した分散計測システムでは、CompactRIOで測定を行ってデータを処理し、結果をサーバに一方的にアップストリームするケースが多い。それに対し、TUNNEL EYEではサーバからCompactRIO側へのダウンストリームも行う。そうした双方向通信を利用している点が特徴の1つだ」と語る。

消費電力を2割削減

このように構成したシステムによって、安全性の向上、消費電力の削減のそれぞれについてどのような効果が得られたのだろうか。

まず、安全性の向上に関しては、各人が携帯するRFIDタグを利用することで、入坑管理の電子化を図ることができた(図3)。それだけでなく、誰がどこにいるのかを把握したり、坑内をどのように移動したのかを記録したりすることも可能である。仮に坑内で火災や落盤などの緊急事態が発生したとしても、行動履歴によって所在を追跡することが可能になったということだ。

図3. 入坑者や作業環境の情報を表示する画面

このような入坑管理システムは、これまでまったく存在しなかったというわけではない。ただ、今回のシステムでは、入坑者の情報を、照明や換気ファンの自動制御と関連付けている点が大きく異なる。つまり、安全確認の機能に連動して省エネの機能が働くようになっているのだ。その動作を土砂の搬出という作業工程を例にとって説明する。この作業工程では、大型のダンプトラックがトンネル内を往来することになる。そこで、そのトラックの動きを検知し、トンネル内の照明を通常よりも明るくするよう制御する。同時に、トラックからの排気ガスや掘削で生じた粉塵が舞いやすくなるので、換気ファンの風量も増やすように制御を行う。もう1つの例として、トンネル工事の先端部(切羽)に作業員がいて、電気機器であるドリルジャンボが稼働しているケースを考える。その場合、車両の往来はなく、ガスや粉塵は発生しにくいので、照明の照度を下げて、換気ファンの風量を弱めるという制御を行う。このように、入坑者や工事車両の状態、施工機械の稼働状態、各種ガスの濃度の状態の組み合わせに応じ、照明と換気ファンを自動的に制御することで、無駄な電力消費を抑えることができる。また、安全が確認できれば、タブレット型端末から消灯や停止といった操作を行っても構わない。加えて、省エネを図るための基本的な取り組みとして、現場で消費される電力の内訳を可視化することも可能になる(図4)。

図4. 消費電力を可視化した結果

消費電力の削減には、特に換気ファンの制御が大きく寄与する。通常は、連続して最高速で運転するのだが、実際には粉塵が少なければそれほどの強さは必要ない。そこで、濃度計によって粉塵の量を測定し、その結果に応じて強度を変更すれば無駄な電力を消費しなくて済む。この手法は従来から活用されていたのだが、TUNNEL EYEの手法には大きく異なる点がある。これについて白石氏は以下のように語る。

「濃度計は、切羽での建設用機械との接触や、発破などによる故障を防ぐために、切羽から50 mほど離れた位置に配置される。そのため、従来の方法では濃度計が粉塵をとらえたときには、すでに切羽が高濃度の粉塵環境にさらされているということがあった。そのような状態になってから風量を最高速に制御したのでは遅いと言える。それに対し、今回のシステムでは、人や工事車両を検知し、各装置の消費電力を測定し、濃度の測定も行っている。それらの情報に基づいて、坑内でどのような作業が行われているのかを自動的に判断している。その結果、これから粉塵の量が増える作業が行われるということがわかったら、実際に粉塵の濃度が高くなる前に、換気ファンが自動的に最高速に設定される。これにより、従来の方法よりも安全を維持するための確実性が高まっている。この種の制御フローについてはイー・アイ・ソルの協力を得て、何度もプログラムを修正して最適化を図った。その結果、スムーズな運用が可能になり、効率的な省エネも合わせて実現することができた。」

このような成果を上げているTUNNEL EYEだが、その設計/実装は、わずか2ヶ月のうちに行われた。その後はテストと修正が繰り返されたわけだが、その作業も1ヶ月間で収束したという。計3ヶ月という短期開発を実現できた理由について、平澤氏は「再構成が可能なCompactRIOと、グラフィカル開発が可能なLabVIEWによるところが大きい」と述べている。そのうえで同氏は、「そもそも、当初の打ち合わせでは、これまで実績のある換気ファンの制御よりも、新たに照明の制御を実現したいというのが主要なテーマだった。その後、モジュール式のCompactRIOであれば多様な計測/制御に対応できると説明しているうちに、それならば換気ファンの制御も、よりきめ細かく行えるのではないかと話が広がっていった。仕様を決める前の段階で、NI製品のメリットを理解してもらったことにより、システムの具体的な構想が次第に発展していった。このことも、NI製品の特徴が生かされた結果だと考えている」と述べた。

変化に対応できる柔軟性

錢高組では今後の山岳トンネルの工事にも新システムを適用していく予定である。ただ、「最初の現場で運用を始めた段階なので、今後の展開について明確な決定事項があるわけではない」(白石氏)という。それでも、システムの拡張性/柔軟性については、「ソフトウェアで実現する部分は、今回の実績をベースとしてどのような現場でも対応できるよう、ある程度のカスタマイズを施せるようになっている。また、現場によっては、換気ファンに加えて集塵機も使ったり、土砂の搬出はトラックではなく連続ベルトコンベアを使ったりといった違いがあるが、モジュール式のCompactRIOであれば、そうした違いにも対応できるはずだ」との感触を得ている。さらに、「現場からは、人手のかかる作業を自動化したいといった要望もあるので、今後はそういう方向でシステムが進化していくことになるかもしれない」(白石氏)とも考えている。

一方、平澤氏は「イー・アイ・ソルとしてはTUNNEL EYEの名称でこのシステムを外部に販売していきたい。安全管理や省エネを目的とするシステムはすでに存在するが、それらを同時に実現するシステムは見当たらない。2つの課題を同時に解決できるTUNNEL EYEならではの効果を訴求していきたい」と述べている。

 

 本事例の詳細:CompactRIOでトンネル工事向けIoTシステムを構築、安全管理と省エネを同時に実現

 

 

CompactRIOとは?

本事例で採用されたCompactRIOは、オープンな組込アーキテクチャに、小型で堅牢性が高く、ホットスワップが可能な工業用のI/Oモジュールを組み合わせることができます。

 詳しくはこちら

インダストリアルIoTの動向

この資料では、インダストリアルIoT(IIoT)へのNIの取り組みについて触れているほか、NI製品を使用した各種事例もご紹介しております。

 技術資料集をダウンロード

NI LabVIEWでできること

LabVIEWを次世代のソフトウェア開発に利用するメリットや、LabVIEWを採用した多くの企業での成功事例について解説した技術資料集です。

 技術資料集をダウンロード