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LabVIEW RIOアーキテクチャーを利用しハイブリッド車向けのモーターHILSを構築、 FPGAの高い演算性能とオープンアーキテクチャーが決め手に

 

富士重工業は、2013年6月に同社初のハイブリッド車「SUBARU XV HYBRID」を発売した。量産型のハイブリッド車は初めてということで、その開発にあたっては従来とはまったく異なる手法が必要となる部分もあった。なかでも、モーターの制御に用いるECUについては、実機を使用する従来の手法のままでは、量産車に求められる高い制御品質を実現することは不可能であったという。そこで同社が導入したのがHILシステム(モーターHILS)である。そして、その実現の決め手になったのがナショナルインスツルメンツ(NI)のNI FlexRIOだ。なぜNIの製品が選ばれ、どのような成果が得られたのか、富士重工業 HEV設計部の森田知洋氏にお話をうかがった。

モーター用ECUの新たな検証手法が必須

今日の自動車は、機能の拡充や制御の高度化が進んだ結果、非常に多くのECU(電子制御ユニット)を搭載するようになった。特に、ハイブリッド車では、従来のエンジンに加えて電動モーターによる駆動系も併用することから、モーター用ECUが極めて重要な役割を果たすことになる。

新たにハイブリッド車「SUBARU XV HYBRID」の開発を計画していた富士重工業は、このモーター用ECUの開発に関して1つの大きな課題を抱えることとなった。その課題とは、従来の開発手法を踏襲していたのでは、量産車に求められる高い制御品質を保証することはできず、まったく新たな検証の仕組みを構築しなければならないというものである。

その時点で、富士重工業は、ハイブリッド車向けのモーター用ECUの開発実績自体は有していた。基本的な制御システムは、同社の先行開発部門がすでに開発したことがあったのである。また、300台程度の小規模生産ではあったが電気自動車もすでに開発していた。しかし、国内や北米をターゲットとした量産型のハイブリッド車を開発するのは初めてだった。つまり、量産車向けモーターの制御アルゴリズムを開発するのは同社として初の試みだったのである。では、量産車を開発する場合には、どのような点に配慮しなければならないのだろうか。

 

富士重工業 スバル技術本部 HEV設計部
主査グループ 担当
森田 知洋氏

先行開発部門が開発を行った際には、あくまでもハイブリッド車としての基本的な機能と性能を実現することが目的だった。そのため、検証作業としては、モーターの実機とモーター用ECUの実機を接続し、基本的な機能と性能を確認するレベルで十分であった。しかし、量産車に求められるモーターの制御品質は、それとはまったく異なるレベルのものだった。富士重工業 スバル技術本部 HEV設計部 主査グループ 担当の森田知洋氏は「量産車の場合、どのようなユーザーがどのように運転を行い、どのような状況が発生したとしても、人身の安全を確保するとともに、車体の故障を防ぐことができる多様な制御機能を盛り込む必要がある。そして、そのような制御機能の検証を、実機を使用して行うのは極めて困難であることは明らかだった」と語る。つまり、十分な制御品質を確保するための仕組みを新たに構築することが最大の課題だったのである。それに向けて、森田氏らは「制御に関する不具合ゼロを目標として取り組みを行った」という。

 

HIL システムが検証手法の要に

モーター用ECUには、モーター制御用のアルゴリズムを実現するソフトウェアを実装する。このソフトウェアの検証を十分に行うことにより、制御品質の保証が達成される。森田氏らは、検証のための仕組みづくりに向けて、以下の3点を目標として掲げた。

  • ヌケ/モレのない検証の実現: 通常であれば想定されないような“意地悪”な条件なども含めて、検証項目にヌケやモレが生じないようにする。ブレーキとアクセルを同時に踏んでしまったり、走行しながらエンジンのイグニッションを切ってしまったりといった状況でも、安全上の問題を生じることなくモーターが機能し、故障にも至らないことを検証する必要がある。周囲の環境の影響など、実機で再現するのが困難な条件も含めて、あらゆる検証項目を網羅したテストを実施できるようにする
  • 要件、仕様、検証の間のトレーサビリティの確保:開発工程が先に進んでも、要件、仕様、検証結果が互いにどのように対応しているのかを把握できるようにする。従来の開発手法では、ある検証項目がどのような要件を満足するために行われているのかわからない状態に陥ることがあった
  • 回帰テストの導入:開発工程で何らかの変更を行った結果、もともとの要求に反する影響が生じることは許されない。変更を行った後、すべての項目について再度テストを実施して変更による影響の有無を確認できるよう、回帰テスト(リグレッションテスト)が行える仕組みを作る必要がある

森田氏らは、新たなモーター用ECUの開発作業を、図1に示した「V字プロセス」にのっとって進めることにした。それにあたり、上記の3つの目標を満たすための“肝”になる要素として、HIL(Hardware-in-the-Loop)システムを導入することにした。制御アルゴリズムを実現するコードを実装したモーター用ECUの検証を、モーターの実機ではなく、モーターの動作を模擬するHILシステム(モーターHILS)を利用したシミュレーションによって行うということである。検証にあたっては、実機を使用するのでは作り出すことが困難な条件を含めて、あらゆる項目を網羅する。また、検証作業に加えて、試験結果の記録までを自動的に行えるようにすることによりトレーサビリティを確保する。さらに、そのような自動化を実現することによって、回帰テストも行えるようにすることを目指した。

図1. モーター用ECUの開発プロセス(V字プロセス)

 

検証システムの構成

森田氏らが開発した検証システムは、図2に示したように、モーター用ECUの実機と、モーター(モータープラント)の動作を模擬するHILシステムで構成される。HILシステムは、トルクや回転数などをパラメータとして、モーターのあらゆる動作を等価的に表現することができる。トルクや回転数について指定したテストパターンをモーター用ECUで実行すると、それぞれのパターンに応じてHILシステムが異なる挙動を示す。その挙動が、期待していたとおりのものであるかどうかを検証する仕組みだ。


図2. HIL システムを採用した検証環境

森田氏らは、HILシステムの中核をなすハードウェアとしてNI FlexRIOを採用した。NI FlexRIOは、PXI技術をベースとするコントローラ製品であり、FPGAを搭載したNI FlexRIO FPGAモジュールを備えることを1つの特徴とする。これで、モーターの動作を疑似的に表現するモデルを実行する。また、FlexRIOに配備するすべてのプログラムは、グラフィカルシステム開発ツールであるNI LabVIEWによってグラフィカルに記述することが可能である。

各テストパターンを順次実行するためのテストシナリオはExcelシートとして作成した(図3)。実行ステップを1ミリ秒とし、トルクの値、モーターの回転数などの試験条件を時系列でExcelシートに記述する。これに従って、モーター用ECUが動作し、HILシステムに対してPWM信号などを送出する。それらの信号を受け取ったHILシステムが実際のモーターを模擬して動作(具体的には演算処理が行われ、実際のモーターと同等の速度で結果を出力する)し、その結果得られたトルクや3相電流の値を表す信号をモーター用ECUに返す。一方、テストシナリオに対応するものとして、テストレポート用のExcelシートもあらかじめ用意しておく。こちらには、1ミリ秒の保存ステップで、トルク、3相電流などの期待値を記述しておく。このExcelシートに、シミュレーション結果として得られた値を順次書き込み、それぞれに対応する期待値と比較して判定を行う仕組みだ。


図3. 検証結果の例

 

また、検証の自動化も基本的にLabVIEWによって実現している。LabVIEWでテストシナリオのExcelシートを読み込んで実行し、得られた結果をテストレポートのExcelシートに自動的に書き込むという仕組みである。そこから先の判定処理はExcel VBAで実現した。

 

決め手は、FlexRIO の演算性能

HILシステムの開発にあたり、森田氏らがNIのFlexRIOを採用したことには1つの大きな理由があった。それは、他社のコントローラ製品を使用したのでは、HILシステムに必要な演算性能(実際のモーターと同等の速度での動作)が得られないということである。

HILシステムでは、シミュレーションの時間分解能に相当する制御レート(ループレート)が重要な要素となる。富士重工業のモーター用ECUでは、この制御レートが1.2マイクロ秒以下である必要があった。「この値を実現できなければ、シミュレータとしての用をなさない」と森田氏は語る。

他社のコントローラ製品の場合、制御/演算用のデバイスとして、Intel社などのCPUを採用しているものがほとんどである。それらの製品を使用した場合、制御レートとしては5マイクロ秒程度しか実現できなかったという。一方、NI FlexRIOでは制御/演算用のデバイスとしてFPGAを採用している。FPGAは、CPUと比較して特に演算処理性能の面で大きなアドバンテージを持つ。そのため、1.2マイクロ秒以下の制御レートを実現することができた。森田氏は「このことが、NI FlexRIOを採用した決定的な要因だった」と語る。また、NI FlexRIOが備えるFPGAは大容量のDRAMを内蔵していることから、モーターの基本的な動作/特性を表現できる線形モデルに加えて、より現実のモーターに近い動作/特性を表現可能なJMAG-RTモデル(JSOL社製)も使用できる。

加えて、NI FlexRIOが備えるFPGA向けのプログラミングも、LabVIEW FPGAモジュールを使用することで、LabVIEWによる通常のプログラミングと同様にグラフィカルに行うことができる。つまり、HDL(ハードウェア記述言語)のようなテキストベースの言語を使用することなく、短期間で開発を行うことが可能だということである。

 

検証手法の確立、検証コストの削減

上述したように、NI FlexRIOを採用したことによって、森田氏らはモーター用ECUの検証に使用するHILシステムを、目標としていた性能で構築することができた。また、ヌケ/モレのないようテストシナリオの開発に注力したことで、目指していたレベルの制御品質を得ることが可能になった。テストパターンはすべて自動的に実行することが可能である。しかも、すべてのパターンを自動実行するのにかかる時間は約118時間に抑えられている。仮にすべてのテストを手作業で行うとすると、実に2300時間ほどを要する見込みだというが、実際には自動テストであれば排除できる人的ミスが間違いなく発生し、そのリカバリにも時間を要すことから、すべてを手作業で実施するのは現実的には不可能だという。「HILシステムを導入するとともに、テストの自動化を図らなければ、SUBARU XV HYBRIDの開発プロジェクトそのものが成り立たなかった」(森田氏)ということである。

また、テストシナリオに対応してテストレポートを自動的に残せるようになったことから、トレーサビリティの確保も可能になった。さらに、自動化を図ったことで回帰テストの実施も可能になり、変更に対する予想外の影響の有無を検出可能な体制を整えることもできた。

森田氏は、HILシステムを導入したことによるそれ以外のメリットについて、「実機のモーターを使わなくてもテストが行えるので、モーターベンチや試験車両の準備といったセットアップにかかる工数が激減した。加えて、高電圧の取り扱い資格がない人員でもテストを実施できる。さらに、車両で発生した再現性の低い事象についても、条件をさまざまに変更することによってHILシステム上で再現することが可能になった」と述べている。

なお、このHILシステムを有効に活用するためには、いかにヌケ/モレのないテストシナリオを開発するかということが重要なポイントになる。そして、その作業には多大な時間を要する。しかし、そのようにして開発したテストシナリオは、資産として手元に残り、何度でも再利用することができる。各種の設計変更に応じて回帰テストを実施できることはもちろん、次期製品の開発にも流用することが可能だ。「テストシナリオの開発に時間を投資する価値は十分にあった」と森田氏は述べている。

 

適合作業もHILシステムで

このプロジェクトでは、適合の作業(実際に使用するモーターやインバータの特性に対するチューニング作業)は実機のモーターと実機のモーター用ECUを使用して行った。つまり、V字プロセスにおける「MG(Motor Generator)とインバータの実機適合/検証」の部分ではHILシステムは使用していない。これは、その時点ではモーターの動作を模擬するモデルとして、線形モデルを使用していたためだ。HILシステムを使用して適合を行うには、モーターの動作/特性をより正確に表現可能なJMAG-RTモデルを使用する必要がある。現在では、JMAG-RTモデルも利用できる状態になっているので、今後は適合作業にもHILシステムを適用していく予定である。

また、現時点ではモーター単体はJMAG-RTにより実機に近づけることが可能だが、モーターのケーシングや冷却機構などを含めた機構モデルを実装しておらず、温度(熱/冷却)のパラメータに対して完全なレベルには達していない。加えて、インバータのモデルも理想スイッチを使用したものとなっている。そのため、「実機の動作を完全に再現できるレベルには至っていない」(森田氏)という。これについて、森田氏は「モデルの進化という面で、業界全体の動きを待つ必要があるだろう」とコメントしている。

 本事例の詳細:NI FlexRIOでハイブリッド車向けのモーターHILSを構築

 

NI Flex RIOとは?

高性能のモジュール式I/O、強力なXilinx FPGA、PCベース技術を1つのプラットフォームに統合したもので、オンボード処理とリアルタイム解析に最適です。

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