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「真の」マスタスレーブ式ロボットがロボットバトルに参戦、その超短期開発を可能にしたNI製品

 

2014年12月に、『ロボット日本一決定戦!リアルロボットバトル』という番組が日本テレビ系列で放送された。このバトルには6機のロボットが参戦したのだが、「人機一体・金岡博士チーム」が開発したロボットのクオリティの高さには驚かされた方が多いのではないだろうか。このロボットは、マンマシンシナジーエフェクタズ株式会社/立命館大学の金岡氏が開発した独自の制御技術を適用して構築されている。この技術により、ロボットの操作者は、あたかも自らの手で作業を行っているかのような感覚を得ることができるという。一方のロボットは、無線制御によって非常に滑らかに動作するとともに、過酷な稼働環境に耐えられるだけの堅牢性も備えている。このような特徴を有するロボットを、金岡氏らはナショナルインスツルメンツ(NI)のハードウェア/ソフトウェアを活用することにより、わずか数ヶ月で完成させることができたという。なぜ、そのような超短期開発が可能だったのか、金岡氏にお話をうかがった。

「もっと、きちんとしたロボットを!」

立命館大学 チェアプロフェッサーの金岡克弥氏が代表取締役を務めるマンマシンシナジーエフェクタズ(株)は、同大学発のベンチャー企業である。同社の社名にある「マンマシンシナジーエフェクタ」とは、「人間のみ、あるいは機械のみでは実現できない機能を、人間と機械の相乗効果(マンマシンシナジー)によって実現する効果器」のことだ。そのようなロボットの研究開発を行って実用化を果たすことが同社の目標である。研究開発の中心にあるのは、操作者である人間の動作を反映し、その力を増幅して作業を行う大出力のロボットだ。この種のロボットは、操作する側である「マスタロボット」と操作される側である「スレーブロボット」の2つのロボットによって構成されることから、一般的にはマスタスレーブ式と呼ばれている。極めて単純な例としては、人間の手では持ち上げられない重たい荷物を運ぶケースが挙げられる。このような場合、通常であればフォークリフトのような機械を利用することになるが、マスタスレーブ式のロボットでも同様の運搬作業を実現することができる。マスタ側の操作者が荷物を両手で持ち上げて運ぶ動きをすると、スレーブ側のロボットがその動きに追従しつつ力を増幅し、その重たい荷物を実際に持ち上げて運搬するといった具合である。

2014年4月、日本テレビから金岡氏に、同局の番組『ロボット日本一決定戦! リアルロボットバトル』への出場の打診があった。同バトルは、体高2 mほどのロボットが格闘し、トーナメント方式で優勝を競うというものである。2013年に第1回目が開催された後、日本テレビでは「もっと、ロボットとして、工学的にきちんとしたものを作れるところはないか」という話が持ち上がったようだ。その結果、金岡氏への打診に至ったという。これを受けた同氏は、「われわれの研究目的は、先端ロボット工学に基づいて、本当に人の役に立つロボットを生み出すことだ。テレビ番組への出演は、そうしたわれわれの考え方と、先端ロボット工学技術に基づいて開発されたロボットがどのようなものであるかを広くアピールできる絶好の機会だ」と考えて出場を決めた。

マンマシンシナジーエフェクタズ 代表取締役/立命館大学 チェアプロフェッサーの金岡克弥氏

マンマシンシナジーエフェクタズ 代表取締役/立命館大学 チェアプロフェッサー
金岡克弥氏

大会への出場にあたり、金岡氏が掲げたコンセプトは「人機一体」だ。これは、人間と機械の相乗効果を意味する「マンマシンシナジーエフェクタ」をわかりやすく言い換えたものである。マスタスレーブという言葉は、ロボットに携わる人にとってはある程度、一般的なものとなっている。しかし、金岡氏によれば、「マスタスレーブの本来あるべき姿は必ずしも正しく理解されているとは言えない」という。「マスタスレーブ式のロボットをきちんと作れば『人機一体』が実現されるのだということを、テレビを通して示したかった」と同氏は語る。では、「人機一体」というのは具体的にはどういうことなのだろうか。

金岡氏らのマスタスレーブ式ロボットには2つの特徴がある。1つはバイラテラル制御に対応していることだ。バイラテラル制御と対になるものに、ユニラテラル制御がある。ユニラテラル制御では、スレーブ側の動作の状態をマスタ側にフィードバックすることなく、力や位置などに関する指令をマスタ側からスレーブ側に一方的に送ることで制御を行う。それに対し、バイラテラル制御では、マスタ側からスレーブ側に対して指令を送るとともに、スレーブ側の動作の状態(位置や力など)をマスタ側にフィードバックしながら制御を行う。その効果を金岡氏は以下のように説明する。

「われわれのロボットの場合、操作者である人間が無理やり動かそうとしても、負荷が大きすぎるといった理由でスレーブロボットがそれに追随できない状態にあるときには、そのことがマスタロボットを介して人間に伝わってくる。結果として、ロボットと人間の動きが遅延なく一致しているように見える。言い換えれば、操作者である人間は、実際はマスタロボットのみと機械的に繋がっているにもかかわらず、主観的にはスレーブロボットのみと機械的につながっているような状態になる。これが『人機一体』という言葉の意味するところだ」。

図1. 人機一体・金岡博士チームのロボット MMSEBattroid ver.0(スレーブ側)

 

図2. 人機一体・金岡博士チームのロボット MMSEBattroid ver.0(マスター側)

金岡氏らのロボットでは、バイラテラル制御の中でも、「力順送型」という独自の方式を採用している(図3)。バイラテラル制御に対応するロボットでは、一般的には「力逆送型」や「力帰還型」が使われるが、これらの方式は、過酷な条件にさらされるスレーブ側の堅牢性を確保しにくいという欠点を持つ。その原因は、スレーブ側に力センサを設けなければならないことだ。一方、力順送型の場合、スレーブ側では、位置制御ではなく力制御を実行する。スレーブ側に力センサを配置しないことから、過酷な環境や大出力に耐える堅牢性を持たせることが可能になる。マスタ側の操作感が良好になることに加え、スレーブ側では非常に滑らかな動きを実現できるという。

 

図3. 力順送型のバイラテラル制御(上)では、力逆送型(下)や力帰還型とは異なり、スレーブ側に力センサを配置しない。
そのため、高い堅牢性を確保できる。

金岡氏らのマスタスレーブ式ロボットが備えるもう1つの特徴は、パワーの増幅方法である。機械的につながっているだけのマスタスレーブ式ロボットの場合、力を2倍にしようとすると変位が1/2になるという関係がある。より多くの力をかけようとすると、移動量が小さくなってしまうということだ。一方、金岡氏らのマスタスレーブ式ロボットの場合、そのつながりは電気的に実現されている。つまり、コンピュータで情報をやり取りするだけなので、力と変位の関係を自由に変えることができる。ロボットバトル用のシステムでは、力の増幅度を約10倍、変位の増幅度を約5倍に設定した。機械的につながっているだけだと力を10倍にすると変位が1/10になるが、変位も同時に5倍に増幅できるということだ。

実際には、もっと高度な制御を行うことも可能である。例えば、弱い力を加えたときには0倍や1倍に増幅し、大きい力を加えると一気に10倍になるといった非線形の増幅も容易である。「大きな力を得たいときに大きな力が得られるだけでなく、より精密な動作をさせたい、より優しい力で動かしたいといった場合には、人間が優しく力を入れることでロボットも優しく力を出すということだ。強さと優しさを両立できる」(金岡氏)。

さらには、力を周波数領域で評価し、高周波領域と低周波領域で増幅率を変更することも可能だ。このようなフィルタ処理を導入すれば、人間の細かい力の振れのようなものはカットして、大きな動きだけをスレーブ側に伝えることができる。スレーブ側からのフィードバックについても同様である。このように、マスタ側の人の動き、スレーブ側のロボットの動きを単にコピーして互いに伝えるのではなく、その間にフィルタなどの信号処理を適用することで、伝えたい情報だけを選択的に増幅することが可能になる。例えば手術用のロボットなど、より繊細な作業が求められる用途では、そうした処理が必須になるだろう。「機械の数値的な正確さと、人間ならではの数値化できない熟練のスキルを、1つのシステムで両方活かすことができる。われわれが研究しているマスタスレーブシステムは、非常に高いポテンシャルを秘めていると考えている」と金岡氏は語る。

求められる超短期開発

「出場するからには、『本気でやろう』と考えていたが、実際に開発に取り組んでみると、目指す仕様を実現するのは容易なことではなかった。特に問題だったのは、許される開発期間が極めて短かったことだ」――金岡氏はこのように振り返る。

大会で使用するロボットについて、日本テレビからは「ロボットは無線で制御してほしい」との要望が出されていたが、それ以外、制御方式をはじめとする技術的な面で特に決まりがあるわけではなかった。しかし、われわれにとっては単にバトルを行えればよいということではなく、独自の技術を実装して、近未来のロボットのあるべき姿を見せるために、マスタスレーブ式にすることも必須だった。そこで、バトル用のスレーブ側に加え、操作用のマスタ側として同じようなロボットをもう1体作ることになる。上半身には人間と同じような腕を持たせてマスタスレーブ式で制御を行う。下半身については、車輪によって移動できるようにする。片腕の4自由度(肩が3自由度、ひじが1自由度)に加え、腰の回転の1自由度を加えたトータル9自由度を持たせるものとした。

「基盤技術はすでに確立していたので、必要な作業は仕様に応じて設計・実装を行うことだけだった。メインの制御技術はこれまでに開発してきたもので十分だったし、ソフトウェアについてもそのロジック/アルゴリズムは、以前開発したマスタスレーブシステムでほぼ完成していた。ハードウェアについても、われわれがすでに製品化していたロボット制御工学の研究・教育用ロボットキット『MMSEUnits』を使うので問題はない。つまり、技術的な課題はあまり存在せず、やればできるという状態だった。しかし、開発に許される時間があまりにも短いことが大きな不安要素だった」(金岡氏)。

金岡氏には2014年4月に出場の打診があり、実際にバトルを行うのは同年11月初旬と決まっていた。「7ヶ月間のうち、4~8月の5ヶ月間は、資金調達、チームメンバー選定、基本設計やコンセプトの構築、メカ部分の基本的なフレームワーク設計など、開発前段階の基礎固めに費やされた。結果として、それ以外のすべての開発作業は最後の2ヶ月間で完了させなければならなかった」(同氏)という。

開発期間の短さに加えて、実は技術的な面でも1つだけ課題が存在した。それは、無線による制御を行わなければならないことだった。「それまで、マスタスレーブ式のロボットを無線制御で実現したことはなかった。バトルの会場で必要な通信距離はせいぜい15 mほどであったし、ユニラテラルなシステムであれば片方向で制御信号を送り続けるだけでよい。しかし、われわれのバイラテラル制御では、双方向かつリアルタイムで高速にデータをやり取りしなければならない。われわれは無線システムの実装ノウハウをまったく持っていなかったので、そこをどのようにして実現するのかということが唯一の技術的な課題だった」(金岡氏)という。

わずか10日でプログラムを開発

上述したような状況の中、金岡氏らが選択したのがNIの製品だ。マスタ側、スレーブ側ともに、制御用のハードウェアとしてNI CompactRIOを採用した(図4)。CompactRIO上で稼働するプログラム(アプリケーションソフトウェア、FPGA用のコード)は、LabVIEWを使用して開発した。LabVIEWによるグラフィカルなシステム開発手法と、FPGAの高い性能/柔軟性を活用できるCompactRIOを採用したことで、短期開発と無線制御という2つの課題を非常に容易にクリアすることができたという。「特に、LabVIEWによるプログラム開発は10日程度で終わらせることができた。基盤技術は確立しているので実装だけの問題だとはいえ、従来のシステムとは軸数も運動学も異なるし、使っているアクチュエータも違う。しかも、無線化も行わなければならない。実質的には一からプログラムを開発しているようなものだ。それをたった一人で10日で完了できたというのは驚異的な速さだと言える」と金岡氏は語る。

図4. マスタースレーブ式ロボットの構成

 

また、LabVIEW/CompactRIOをベースとするシステム開発のメリットについて、金岡氏は以下のように述べている。

「LabVIEWはモジュール化を実施しやすいシステムだと言える。さまざまな機能を異なる場所から寄せ集めて統合するといったことがC言語に比べて非常にやりやすい。また、タイミングループのような処理をプログラムに複数盛り込んでも問題なく動作する。マルチスレッド処理を行う場合、C言語によるプログラミングではかなり頭を使わなければならないが、LabVIEWであれば非常に容易に実現できる。今回のLabVIEWによる開発では、ほぼゼロと言えるくらい手戻りの回数が少なかった。仮にC言語でプログラミングを行わなければならなかったとしたら、かなりの手戻りが発生してしまい、期限内に開発を終えるのは不可能だったはずだ」。

金岡氏は、FPGAによって得られるいくつかのメリットも指摘している。それらのうち、FPGAがシステム性能にもたらす利点を特に強調した。

「FPGAを自分でプログラミングできることのメリットは大きい。例えば、シリアルデータ伝送を行う部分では、データを解釈する処理をすべてFPGAに担わせることにより、ロボットが備えるセンサの最高速度で通信が行える。FPGAが使えない場合や、機能が固定されているシステムを採用した場合には、力センサの能力を十分に引き出すことができない。最近のセンサはデジタルで情報をやり取りするものが多いので、高い通信速度を実現できる点は、通信遅延が制御性能に直ちに悪影響を及ぼすバイラテラル制御においては特に大きな魅力だ」。

技術的な課題であった無線制御についても、LabVIEW/CompactRIOによって極めて容易に解決できたという。

「今回のシステムでは、さまざまなデータを送受信することから処理が複雑になる。上半身だけで全部で10軸9自由度あり、下半身も含めると16軸12自由度分のデータを扱わなければならない。1軸には、力、変位(回転角度)、温度の3種類のデータがあり、それぞれに更新周期も異なる。このように多様なデータを扱わなければならないのだが、LabVIEWを使えば非常に簡単に必要な処理をプログラミングできる。あまりにも容易に無線化を実現できたため、開発チーム一同が感嘆の声を上げた程だ」。

実際のシステムでは、無線LANの新規格であるIEEE 802.11ac(5 GHz帯のWi-Fi)を採用した。同規格に正式対応する機器は、2014年9月末というロボット開発の最終段階で発売された。LabVIEWを採用したことで、それらも即座にシステムに組み込むことができたという。「ループ制御は3 ms程度の周期で行ったのだが、バトルの会場でも、瞬断すら一切発生することなく非常に安定した状態で無線通信を継続できた」と金岡氏は述べている。

以上のような経験を踏まえた結果、LabVIEW/CompactRIOについて同氏は以下のように総括している。

「開発用のプラットフォームとしては、現存するものの中で、LabVIEWが最も使いやすいと考えている。というよりも、グラフィカル開発によって高い生産性が得られることに加え、FPGAが備える高い性能/並列性/柔軟性を活用できること、マイコンを使用すると非常に複雑化する多種多数のインタフェースへの対応が容易であることなどを考えると、現時点でわれわれの要求に期待どおりに応えてくれるものは、恐らくLabVIEW/CompactRIOしか存在しないだろう。もしサイズやコストの制約が存在しなければ、現段階では、われわれのほぼすべての開発にNIのプラットフォームを適用できると考えている」。

「触覚」だけではなく、「視覚」も必須

今回のシステムには、新たな試みとして視覚機能も付加されていた。これは、スレーブ側が備えるカメラで取得した映像を、マスタ側の操作者がゴーグル型のモニターによって見ながら操作できるようにするというものである。「詳細な説明は別の機会に譲るが、今回の開発を経験して、マスタスレーブシステムでは視覚機能が必須だということを改めて確信した」(金岡氏)という。直接手で作業を行っているかのように感じられるという点で、マスタスレーブシステムにおける触覚は非常に重要なものだ。ただ、それだけでは、手術などの用途に応用するには不十分だという。「触覚だけではなく、『触覚+視覚』のシステムにしておかなければ、マスタスレーブシステムの爆発的な普及には至らないだろう。今後はこの技術について研究開発を進めていきたい」と同氏は語る。

金岡氏は、「人機一体」のロボットの将来について、以下のように述べて話を締めくくった。

「われわれの目標はマスタスレーブ式のロボットを実用化していくことだ。それに向けて、当面は市場開拓が重要な取り組みになる。われわれが開発したようなロボットがいきなり大きな市場を得るとは考え難いので、その前の段階としてもう少し小規模かつ実用的なシステムによって市場を形成していきたい。現在は、物流や建築の分野で、われわれの技術に関心を持ってくれる企業が現れてきたところだ。そうした企業と地道に開発を継続し、数年のうちに、試作機でもよいので市場に成果物を出していきたい。同時に、『将来的にはこのようなことも可能になる』というビジョンも発信していくつもりだ。われわれだけでもここまでできるのだから、意欲のある企業との協業によって多くのリソースを投入できるようになれば、もっとすごいことを実現できると確信している」。

 本事例の詳細:LabVIEW/CompactRIOにより、バイラテラル制御のマスタスレーブ式ロボットを超短期間で開発

 

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