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アイデアを手早く簡単にカタチに! グラフィカルシステム開発がさらに強化

 

グラフィカルシステム開発は、ものづくりの開発効率を向上させる新しい手法であり、アイデアを手早く簡単にカタチにする上で最適なアプローチである。頭の中にあるアイデアをグラフィカルな開発環境でブロックダイアグラムとして記述すれば、その内容がハードウェアに自動的に実装され、システムが出来上がる。NIはこの手法の具現化に取り組んでおり、NIWeek 2012ではその最新状況が明らかになった。

エレクトロニクスシステムの設計者は、常に「開発期間」や「コスト」、「品質」のプレッシャーと闘ってきた。今後もそのプレッシャーは強まりこそすれ、弱まることはないだろう。徒手空拳で立ち向かうことは難しい。革新的な開発手法の導入に、果敢に取り組む必要がある。

そうした開発手法の有力な選択肢が、ナショナルインスツルメンツ(NI)が提唱する「グラフィカルシステム開発」だ。システムの設計から試作、実装に至る一連の工程を、グラフィカルなプラットフォーム上で一貫して行う手法である。設計者はその頭の中にあるアイデアを、「グラフィカルなイメージ」で、そのまま開発環境に与えればよい。制御ソフトウェアの開発も、試作機の構築も、製品用ハードウェアへの実装も、全て単一のグラフィカルな環境で直感的に行うことができる。

NIが本社を構える米国テキサス州オースティンで開催したテクニカルイベント「NIWeek 2012」(2012年8月6~9日)では、同社の創業者でプレジデント兼CEO(最高経営責任者)を務めるDr. James Truchardが基調講演に登壇し、「System Design for the 21st Century」と題して講演。システム開発の進展とNIの歩みを振り返るとともに、グラフィカルシステム開発の展望について語った。さらに、マーケティング担当バイスプレジデントを務めるEric Starkloffがステージに登壇し、Truchardが示した展望を現実のソリューションとしてユーザに提供する、さまざまな新製品を発表した。

NIWeek 2012のオープニングスピーチに立つ Dr. James Truchard

NIの創設者であり、現在はプレジデント兼CEOを務めている。NIWeek2012では、世界中
から集まった3400人を超える参加者を前に、現代のシステム開発について語った。

 

CEOのDr. James Truchardは今回、かねてから同社が主張してきた「NI LabVIEWを中核としたグラフィカルシステム開発への移行」というメッセージをあらためて強調した。

同氏によれば、グラフィカルシステム開発とは、LabVIEWを中核とする「オープンなエコシステム上に構築されるプラットフォームベースの開発アプローチ」だという。基調講演のステージでは、そうしたエコシステムの一例としてAppleのビジネスモデルを紹介した。ミュージックプレーヤやスマートフォン、タブレット端末などに自社のOSである「iOS」を搭載し、そのOSに向けたさまざまなアプリケーションソフトウェアをパートナー企業が提供するという形態を作り上げた。同氏は、「当社(NI)も、創業当初から同様の発想を持ち、LabVIEWと、連携する計測/制御ハードウェアや組み込みハードウェアとを組み合わせたプラットフォームを提供し続けている」(同氏)と述べた。

 

さらに複雑なシステム開発にも対応

次にDr. James Truchardは、自動車や航空宇宙産業の分野で開発プロセス手法として既に浸透し、現在はさまざまな分野のシステム開発で注目されているV字モデルに話題を移した。同氏によれば、V字モデルにNIのグラフィカルシステム開発の手法を適用すれば、「複雑度が高まり続けるシステム開発の現状に対応できる」という。そして同氏は、計測/テストや組み込み機器開発、制御、ロボット開発といったさまざまな分野に対して、V字モデルにグラフィカルシステム開発を当てはめる取り組みを強化し続けると表明した。

左の図はV字モデルの左側に設計の複数の工程を置き、右側にテストの複数の工程を対応させた、旧来のV字モデルである。一方で右の図は、複雑度が高まるシステム開発に対応すべく、テスト工程の側に黄色のブロックで示した
新たな技術を適用するというコンセプトだ。

現代の携帯端末には、電話の通話機能や電子メールの機能に加えて、デジタルカメラやマルチメディアプレーヤ、GPSといったさまざまな機能が集積されている。その上、そうした携帯端末が内蔵する無線通信規格の進化も著しく、LTE(Long Term Evolution)やWiMAX、IEEE 802.11adといった高度な方式が次々に登場する。こうした機能や技術の進歩を支え、タイムリーな製品の市場投入を可能にしてきたのが、NIが提供するグラフィカルシステム開発環境だとDr. James Truchardは述べた。

同氏は、NIが先進技術の研究開発を支えている一例として、第4世代無線通信規格「LTE-Advanced」に続く第5世代(5G)無線通信の技術開発について紹介した。具体的には、ドイツのドレスデン工科大学がNIの製品を活用して5G通信の研究をスタートさせた。無線通信システムのさまざまなコンセプトを検証したり、OFDM(直交周波数分割多重方式)技術の高度化や多チャネルMIMO技術の適用拡大に取り組んだりする計画だ。このプロジェクトの中で、技術開発のスピードを高める有用な手法としてNI LabVIEWとハードウェア製品群が生かされているという。

またDr. James Truchardは、LabVIEWと同社が提供するグラフィカルシステム開発手法の歴史を振り返った。ここで同氏が“参照時間軸”として示したのが、カリフォルニア大学バークレー校(UCB)におけるエレクトロニクス設計手法の開発の進展である。同校では1973年に、電子回路設計ツールの礎となる「SPICE」を発表しており、それが「現代のエレクトロニクス設計の出発点になった」(同氏)。

そして1986年にNIがLabVIEWの最初のバージョンを発表すると、時期を同じくしてUCBは同期データフローのコンセプトを発表した。それ以降、「四半世紀を超える長い時間軸にわたって、UCBとNIはいずれも、データフロー型の手法を適用することで、システムレベル開発を高度化する取り組みに注力してきた」(同氏)。また、両者は数年前から協業を続けており、双方が互いの技術を理解し、システムレベル開発手法のさらなる高度化を推進しているという。

次にDr. James Truchardは、自動車や航空宇宙産業の分野で開発プロセス手法として既に浸透し、現在はさまざまな分野のシステム開発で注目されているV字モデルに話題を移した。同氏によれば、V字モデルにNIのグラフィカルシステム開発の手法を適用すれば、「複雑度が高まり続けるシステム開発の現状に対応できる」という。そして同氏は、計測/テストや組み込み機器開発、制御、ロボット開発といったさまざまな分野に対して、V字モデルにグラフィカルシステム開発を当てはめる取り組みを強化し続けると表明した。

NIとカリフォルニア大学バークレー校の取り組みの歴史

図の上段はNIが提供してきたLabVIEWとシステム開発手法の歴史で、下段はエレクトロニクス設計ツールの開発で
知られるカリフォルニア大学バークレー校の取り組みである。NIは、LabVIEWを基盤とする「プラットフォームベース・
アプローチ」を基本コンセプトに、多くの機能を追加して、システムレベルの開発に使えるツールに育て上げてきた。
また、CPUやFPGAなど最新の技術を駆使して高速・高性能化にも取り組んでいる。一方バークレーでは、時間軸を
ほぼ同じくして、SPICEから始まったエレクトロニクス設計ツールが、やがて高度なデータフロー型のプログラミング
言語などの開発に発展していった。

 

 

コンセプトの具現化が着実に進む

 

Dr. James Truchardに続いて基調講演のステージに上がったのがEric Starkloffだ。同氏は、グラフィカルシステム開発の高度化を後押しする数々の新製品や、最新の応用事例を次々と紹介した。ここでは、それらの中でも特に注目の新製品を取り上げよう。

まずは、LabVIEWの最新バージョンとなる「LabVIEW 2012」だ。近年のNIWeekでは、LabVIEWの最新版を発表するのが恒例になっている。

今回の目玉の1つは、LabVIEWで実現可能な汎用性の高い機能や特定用途向けの機能をあらかじめ同社が作り込んでユーザに提供する、「サンプルプロジェクト」や「テンプレート」の強化である。NIのエキスパートエンジニアや同社のアライアンスパートナー企業でシステム開発に携わるベテランエンジニアの知見を注ぎ込んだとしており、LabVIEWの習熟度が低いユーザにとっては、システム開発の優れた出発点になるという。既にLabVIEWを使いこなしている高度なユーザにとっては、独自性の低い機能はサンプルプロジェクトやテンプレートを活用しつつ、自分自身は独自性が高く付加価値を生み出せる機能の開発に集中できるというメリットがあると説明した。旧来バージョンのLabVIEWでもサンプルプロジェクトは用意していたが、ユーザがカスタマイズして独自のアプリケーションに流用するといった活用方法を前提としたものではなかったという。

スケーラビリティを念頭に置いて開発されたLabVIEW 2012

システム設計者が目指すべきは左のように可読性とメンテナンス性が高い、美しく記述されたコードである。
ところが、たとえLabVIEWのようなグラフィカル言語であっても、右のようなひどい“スパゲッティコード”を記述することも(もちろんそれを狙っているわけではないのだが)できてしまう。実際に、右側のコードは実在のものだという。
ただし、その開発者の名誉(?)のため、基調講演のステージでは、「誰が書いたか知っているけど、明かさないよ」
という発言が飛び出していた。

 

 

計測/制御ハードウェア上のFPGA制御をサンプルプロジェクトとして用意

LabVIEW 2012のサンプルプロジェクトの一例である。NIの計測/制御ハードウェア「CompactRIO」の内蔵FPGAに
制御ロジックを実装するアプリケーションの土台として活用できる。

ハードウェア製品の注目は、計測/データロギング向けモジュール式データ集録ハードウェア「CompactDAQ」の新機種で、シャーシ部にIntel製のデュアルコアプロセッサを内蔵した「NI CompactDAQスタンドアロンシステム」である。この内蔵プロセッサ上でWindows EmbeddedもしくはリアルタイムOSを稼働させることができ、従来機では必要だった外部PCが不要になる。プロセッサとして、1.33GHz動作の「Intel Core i7」を搭載した機種「NI cDAQ-9139」と、1.06GHz動作の「Intel Celeron」を内蔵した機種「NI cDAQ-9138」の2つを用意した。

スタンドアロン型CompactDAQでスマートカーのデータロギングシステムを構築

新製品の「NI CompactDAQスタンドアロンシステム」を使って、ダイナミックシャーシテストとエンジンテスト、運転者
レスポンステストの機能を統合したデータロギングシステムを構築し、実際の車両に搭載した。図中、青色の枠で
囲ったのがそのシステムである。基調講演のステージでは、実際に走行させることはできないので、Eric Starkloffが車両を揺らして、計測結果がリアルタイムに変化するのを見せた。測定結果は、図中の右上にある画面のように
表示できる。さらに、「Data Dashboard for LabVIEWアプリ」を使えば、共有変数を介して外部とデータを共有する
ようにLabVIEWコードに手を加えることで、右下の写真のようにタブレット端末に結果を表示することも可能だ。

この他のハードウェア製品では、「26年ぶりに計測を再定義する」とうたう新コンセプトのRF計測器も発表された。RF計測器のさまざまな機能をユーザが手元で任意に設計できるというコンセプトだ。これに基づく第1弾の製品として、ベクトル信号発生器とベクトル信号アナライザの機能を兼ね備え、RFパワーアンプや無線システムLSIなどのテストに使える「NI PXIe-5644R」を投入する。今回のNIWeekではこの他にもRF/無線向けの話題が豊富だった。詳細は、別掲の記事「測れないものは設計できない ―― RF開発の変わらぬ課題、その新たな解決策」を参照されたい。

 

全自動放射線計測システムをわずか2カ月で開発

NIが提案するグラフィカルシステム開発の手法と、それを実現するソフトウェア/ハードウェア製品群は、先に述べた通り、エンジニアが「開発期間」や「コスト」、「品質」のプレッシャーに立ち向かい乗り越えるためのツールだといえる。しかしこれらのソリューションには、もう1つ重要な側面がある。すなわち、エンジニアが、エンジニアならではの方法で社会に貢献するためのツールという側面だ。  NIWeek 2012の基調講演では、その側面からの活用で大きな実績を挙げたユーザの開発事例も幾つか紹介された。中でも参加者の高い注目を集めたのは、京都大学原子炉実験所の粒子線基礎物性研究部門で助教を務める谷垣実氏らの成果である。  谷垣実助教らのチームは、路線バスや配達用バイクに搭載できるような小型サイズながらも、全自動で放射線量を計測できるシステム「KURAMA-II」を紹介した。これは、2011年3月に発生した東日本大震災による福島第1原子力発電所の事故を受けて同氏のチームが開発したもので、生活圏における放射線の空間線量率を継続的にかつ広範囲に計測することを目的としたシステムである。NIが提供するハードウェアプラットフォームを採用し、ソフトウェアはLabVIEWで開発した。  谷垣氏によれば、このKURAMA-IIは約2カ月と短い期間で開発が完了したという。「2011年の8月に開発に着手し、9月には原理検証用の試作機を現地に持ち込んでテストした。そして12月下旬には、路線バスに積み込んで実証実験をスタートさせた」(同氏)。従来機の「KURAMA-I」向けにLabVIEWを使って開発済みだったソフトウェアを再利用できたことが、短期間での開発に大きく寄与した。同氏らのチームは今後も、これまでに作り上げた開発資産を活用しつつ、このシステムをさらに小型化する取り組みを進める計画である。

京都大学原子炉実験所の谷垣実助教が震災復興の取り組みを紹介

上段の写真中、中央に立つのが谷垣実助教である。谷垣氏の説明を受けて、聴衆からは大きな拍手が沸き起こった。このステージには、日本ナショナルインスツルメンツの代表取締役を務める池田亮太と事業開発本部長の
マンディップ・コラーナも登壇した。下段の図は、KURAMA-IIのシステム構成を示している。

 

このようにNIWeek 2012では、基調講演でのスピーチや新製品発表、デモを通じて、グラフィカルシステム開発の最新状況が明らかになった。この開発手法は、今後さらに高い抽象度でシステム構成要素を扱って設計できるように進化し、適応範囲をさらに広げていくだろう。アイデアを手早く簡単にカタチにできるこの新たな開発手法の具現化は着実に進んでおり、あらゆる分野のエレクトロニクスシステムを手掛けるエンジニアにとって、極めて有力な選択肢になっている。

(『EETimes Japan』に掲載された記事をアイティメディア社の許可を得て掲載しています。)

 

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