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複雑な製品を短期間で開発! 背反する課題を「シミュレーションとテストの融合」で打破

 

1990年代には、設計品質の向上を掛け声に、電子機器設計の現場にシミュレーションの導入が盛んに進んだ。そして今、「シミュレーションとテストの融合」という新たな取り組みが始まっている。シミュレーションツールとテスト/計測機器それぞれのトップベンダが一堂に会し、その現状と将来像を語った。

開発期間の短縮――。これはいまや、製品サイクルの短い消費者向け機器のみならず、工業向けや商業向けの機器でも、あらゆる組み込み制御システムにおいて至上課題といえるだろう。競合に先んじて次世代製品を投入しなければ、市場で優位を築けない。その競合相手も、国内企業ばかりではない。製造のみならず、開発の分野でもアジアの新興勢力の台頭が著しい。競うには、いっそうのスピード化が必要だ。会社の上層部からはそんな指示が飛んでくる。しかし、製品の複雑度は高まるばかりだ。いったい、どうすればよいのだろうか?

こうした状況を打破する有効な打ち手の1つと期待されるのが「シミュレーションとテストの融合」である。2011年12月1日に開催された日本ナショナルインスツルメンツ(NI)主催のテクノロジイベント「NIDays 2011」のパネルディスカッションでは、シミュレーションツールとテスト/計測機器それぞれのトップベンダが一堂に会し、2つの領域の融合について、現状と将来像を語った。

パネルセッションの様子

向かって右から、パネリストとして登壇したメンター・グラフィックス・ジャパンの三木研吾氏、エヌエフ回路設計ブロックの石橋雅博氏、テクトロニクス社の瀬賀幸一氏、ナショナルインスツルメンツの井上敬夫、AWR Japanの北島徹雄氏。左端はモデレータを務めたアイティメディア エンジニアリングメディア統括部の薩川格広氏。

"独立の改善"から"融合"へ

組み込み制御システムの製品開発を、上流から下流に向かって大まかに、要件定義、設計、実装、テスト、検証と分けてみよう。シミュレーションはほとんどの場合、実装を折り返し点とした前半の工程に用いられ、テストは主に後半に使われる。このようにシミュレーションとテストはもともと独立した工程に適用されており、従来それぞれのベンダが個別に所要期間の短縮化に取り組んできた。

実際にシミュレータベンダは、「ICやプリント基板の電気設計ツールを提供するベンダは、各社がそれぞれの開発環境の所要期間短縮を進めている。しかし、NIのように自社でテスト環境を製品として持っているわけではないので、ツールベンダだけでは、テストとの融合を進めることは難しい」(メンター・グラフィックスのテクニカル・セールス本部でAdvanced System Platformグループ マネージャを務める三木研吾氏)と話す。一方テストベンダは、「当社が直接、シミュレーションツールを手掛けているわけではないので、専門のベンダと協力して融合を進めていきたい」(テクトロニクス社 営業技術統括部 部長 瀬賀幸一氏)と考えている。

ただしこれまでも一般に、シミュレーションに必要なモデルを生成する作業ではテストが活用されており、互いに不可分な存在になっていた。エヌエフ回路設計ブロックによれば、「シミュレーション対象の挙動が良く把握できていれば論理モデルを作ればよいが、そうでなければテストに基づいてモデルを構築する必要がある。例えば電池を扱う場合は電気化学の領域のモデル、モータはメカトロニクス領域のモデルを用意しなければならない。そうした場合は、シミュレーション対象をテストし、観察や分析によって精度を高めていく」(カスタム開発 第1-2部 部長 石橋雅博氏)。例えば同社はこれらの用途に向けて、対象物の周波数特性を実測して等価回路を推定する計測システムを供給しているという。

今後は、シミュレーション用に精度の高いモデルを作成する手段としてテストとの連携をこれまで以上に緊密化していくことはもちろん、開発工程における手戻りを減らしたり、工程間の行き来をスムーズにしたりすることを狙って、いよいよ両者の融合を図ることが重要になる。

米国ナショナルインスツルメンツでシニアRFプラットフォームエンジニアを務める井上敬夫は、「例えば、携帯電話機に代表される無線通信端末は、多分野にわたる知的財産の集大成といえる。このような複雑なシステムでは、最上流の研究・モデリングの工程から、シミュレーション・設計の工程、評価・検証の工程、そして最下流となる製造の工程に至るまで、一方通行では終わらない。工程間を行き来しながら製品を改良することが非常に重要だ」と述べ、シミュレーションとテストの融合を進める意義を説いた。

シミュレーションとテストの融合を体現するソリューションはすでにある

例えばメンター・グラフィックスはNIと連携し、メンターが「アナログ/デジタル/ミックスドシグナルのシステムを開発/解析するための仮想ラボ環境」として供給するソフトウェアツール「SystemVision」を、NIのグラフィカル開発ツールである「NI LabVIEW」のアドオンとして利用できるようにして、両者の融合を図っている。出典:メンター・グラフィックス・ジャパン

シミュレーションモデルを短時間・自動的に作成

モデル作成の観点で融合を図る取り組みとしては、テクトロニクス社が英国のMesuroと共同で開発した、無線向けパワーアンプのシミュレーション用モデルを高精度かつ短時間で作成できるシステムについて言及した(参考記事)。

同社はこのシステムを今後さらに拡張する展望を描く。すなわち、「これまでパワーアンプの開発では、隣接チャネル漏えい電力や変調精度、ビット誤り率、Sパラメータなどさまざまな項目を、シミュレーションしたり、オシロスコープやベクトル信号アナライザ、ネットワークアナライザといった各種の計測器を駆使して実測したりする必要があった。我々が現行システムに採用した『ウェーブ・フォーム・エンジニアリング』と呼ぶ新たな手法を使うことで、これら全てを正確にモデリングでき、シミュレーションして設計できるようにする」(瀬賀氏)という。

テストベンダが描く「近い将来のありたい姿」

「要求分析」から「基本設計」、「機能設計」、「詳細設計」に至る一連の工程におけるシミュレーションに対して、モデルを提供する。シミュレーション側からの働き掛けでテスト環境を自動的に生成する機能も想定した。出典:エヌエフ回路設計ブロック

 

実機と仮想モデルを自在に入れ替える

開発工程における手戻りを減らしたり、工程間の行き来をスムーズにしたりするアプローチでは、高周波無線システムの分野でNIとApplied Wave Research(AWR)が手を組んで、シミュレーションとテストの融合を進めていくと表明した。AWRは高周波部品/システムの設計用ソフトウェアツールを手掛ける米国のベンダで、NIが2011年6月に買収、100%子会社化している(参考記事)。

両社が進める融合によって、「システム全体が物理的に完成していなくても、手前の段階で、未完成の部分はシミュレーション上の仮想モデルで代用し、完成済みの実機部分を組み合わせることで、システム全体の検証を前倒しできる。いわゆるフロントローディングの実践が可能になる」(AWR Japan マーケティングマネージャの北島徹雄氏)という。当初は仮想モデルを置いておき、その部分の実機が完成次第、順次置き換えていくことで、設計時にシミュレーションで評価したシステム全体の特性の等価性が維持されていることを確かめながら、実装を進められる。

RFシステム開発を進化させる計測技術

特に「設計・シミュレーション」と「評価・検証」の工程を行き来する部分を、NIとAWRの両社のツールを連携させることで加速できる。ハードウェアインザループ(HIL)の手法で精度の高いシミュレーションを実施できる上に、評価・検証の自動化と高速化を実現できるからだ。出典:ナショナルインスツルメンツ

 

NIはグラフィカル開発ツール「NI LabVIEW」を主力製品の1つとしており、製造と検証の工程におけるテスト自動化で広く使われている。「そのNI LabVIEWをプログラミング言語と捉えれば、研究・モデリングの工程や、シミュレーション・設計の工程にも活用することが可能である。ただ、これらの上流工程でNI LabVIEWが提供するグラフィカルシステム開発の環境には、これまで高周波無線システムの開発環境が欠けていた。AWRと一体化することで、それが埋まる。工程間の流れをスムーズにできるだろう」(NIの井上)。

こうしたベンダ各社の取り組みは日進月歩だ。新しい製品開発プロジェクトに着手する際には、ベンダから最新の情報を入手して、導入可能なソリューションが提供されているかどうかを確認すべきだろう。

(『EETimes Japan』に掲載された記事をアイティメディア社の許可を得て掲載しています。)

 

 

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