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ミツミ電機がLiイオン電池保護用IC向けのデモ環境を構築、 NI PXIにより従来比1/10の小型化を実現

ミツミ電機は、主力製品の1つとしてリチウムイオン電池向け保護用ICの開発/製造/販売の事業を展開している。スマートホンやタブレット端末の市場では、保護用ICのベンダーとして最大手の地位にある同社だが、その営業関連の活動においては従来から1つの課題を抱えていた。保護用ICのデモンストレーションには、ボックス型の計測器を何台も使用することになる。そのサイズが大きすぎて、フットワークの軽い動きがとれなかったのである。特に、それらの装置一式を持ち運んで海外の顧客を訪問し、デモを実施するというのは事実上不可能であった。この課題を解決したのが、ナショナルインスツルメンツ(NI)のPXI製品群である。PXI製品が営業支援にどのような効果をもたらしたのか、また今後の開発業務にどのように活かすことができるのか、ミツミ電機で保護用ICの開発を担当する3氏にお話を伺った。

スマートホン/タブレット端末に必須のIC

ミツミ電機は、半導体事業として、電源ICやリセットIC、センサICなどの製品展開を行っている。その中で柱の1つとなっているものにリチウム(Li)イオン電池関連のICがある。充電制御ICや残量計ICなどのラインアップをそろえているが、特に主力製品と言えるのがスマートホンやタブレット端末向けの電池保護用IC(以下、保護用IC)だ。保護用ICのベンダーとして、同社は業界最大手の位置にある。

右からミツミ電機 半導体事業部 設計技術部 電池IC技術課 課長の板垣 孝俊氏、同課 副主幹技師の山口 剛史氏、同課の岡淵 良久氏

保護用ICは、スマートホンやタブレット端末で使われるLiイオン電池に過負荷がかからないようにする役割を果たす。電池の出力を監視し、過電圧(過充電、過放電)や過電流(放電過電流、充電過電流、短絡)の発生を検出したら、電圧/電流の経路を遮断するようFETスイッチの制御を行う。それにより、電池や機器の破壊/故障を防ぐことができる。

スマートホンやタブレット端末の場合、非常に短いサイクルで多くの新製品が開発される。そして、Liイオン電池については製品ごとに異なる仕様が定められている。Liイオン電池に関連するICのメーカーは、そうした仕様の違いに応じて製品を開発しなければならない。保護用ICの仕様について言えば、電池の電圧検出レベルや電流検出レベル、誤検知を防ぐための検出遅延時間などを各スマートホンやタブレット端末の仕様に応じて変更する必要があるということだ。そのための最もシンプルな方法は、それぞれの仕様に応じた回路を実現するフォトマスクを設計して製品を製造することである。ただ、その方法には、リードタイム(受注からサンプルや製品を出荷するまでにかかる時間)が長くなってしまうという欠点がある。そのため、実際には、ウェハ段階の各チップに対してレーザートリミングを施すことで、各仕様に適合させるという方法がよく用いられている。あらかじめ、仕様の違いに対応可能なオプションの回路をチップに作り込んでおき、レーザートリミングによって適切な回路定数を選択するということである。

従来は、ミツミ電機も、主にレーザートリミングを使用することで仕様の違いに対応していた。しかし、リードタイムのさらなる短縮を実現するために、同社は新たな手法も採用することにした。その手法とは、チップに搭載したOTP(One Time Programmable)メモリを利用して、レーザートリミングと同様に回路定数の選択を行うというものである。

レーザートリミングを使用する方法では、ウェハの段階で回路定数を決定する。それに対し、OTPメモリを利用する方法では、パッケージング後の最終製品に対して回路定数の設定が行える。同社で設定を行ってから出荷する場合、レーザートリミングを使用する方法に比べて約1/4の期間で製品のサンプルを供給できるという。

また、OTPメモリを使用する手法のメリットはリードタイムを短縮できることだけではない。保護ICを電池保護モジュールに実装した後、顧客がプログラミングを行うことも可能なので、急な仕様変更などにも柔軟に対応できる。加えて、ICの組立時、あるいは電池保護モジュールの基板への実装時に生じる特性変動を吸収するように、パラメータの微調整を行うことも可能になる。 

ミツミ電機はOTPメモリを使用する手法を適用した最初の製品として、「ME01シリーズ」を2015年3月に発表している。

 

デモ環境の運搬作業は“引っ越し並み”

設計・開発担当の山口氏

ミツミ電機がターゲットとするスマートホンやタブレット端末は、言うまでもなく非常に競争の激しい分野である。そうした市場で成功を収めるためには、より良い製品を開発するだけでなく、販売促進にも注力しなければならない。同社は、保護用ICの販促活動としては、顧客を訪問し、実際にICの動作を示すデモンストレーションを実施することが重要だと考えている。同社半導体事業部 設計技術部 電池IC技術課 副主幹技師の山口 剛史氏は「他社もIC製品の評価ボードを提供しているが、それだけを顧客に渡して評価を任せてしまうというのは好ましくない。実際に動作する様子を示すことにより、『こういう場合にはどのような動きになるのか』といった質疑が発生する。そうしたことにより製品に対する理解が深まるし、顧客に製品の記憶を残すことができる。新製品はOTPメモリを内蔵するという新たな特徴も備えているので、ぜひデモを通して販促活動を行いたかった」と語る。

実際、ミツミ電機は従来からデモによる販促活動を行っていた。新製品を開発するたびに、主要な顧客をひととおり訪ねてデモを見てもらうといった具合である。しかし、この活動には1つの大きな課題があった。それは、従来のボックス型計測器で構成したデモ用のシステムが、運搬が困難なレベルのサイズ/重さになってしまうことだ。

保護用ICには、端子数が10本にも満たないものもある。つまり、ICとしては決して複雑/大規模なものではない。それでも、実使用時と同様に動作させ、その機能をモニターできるようにするには、高精度な電圧源、大電流に対応可能な電流源、電圧/電流を計測するためのマルチメータなどが必要になる。各装置も1台ずつでよいとは限らず、複数の電源装置、複数のマルチメータが必要になることがほとんどだ。そうすると、デモの環境はすぐに巨大化してしまう(1)。ミツミ電機 電池IC技術課 課長の板垣 孝俊氏は、「デモ用の装置の運搬は、まるで“引っ越し”のような作業になる。数人掛かりですべての装置をライトバンに載せて、降ろして、組み立ててといったことを行わなければならなかった」と語る。

図1. 従来のボックス型計測器を使用すると、デモの環境が、運搬が困難なレベルまで肥大化してしまう(写真はイメージ)

しかも、OTPメモリを内蔵する新製品では、その機能を示すために、メモリにデータを書き込むための装置も必要になる。つまり、プログラマブルなファンクションジェネレータや高電圧を発生させるための装置も別途必要になるということである。このような理由から、従来のボックス型計測器で構築した環境でデモを行うのは、意外に負担の大きい作業になる。特に、すべての装置を運搬して海外の顧客にデモを見せるのは現実的には不可能である。このことは、製品の販促活動における大きな課題だった。

また現実的な問題として、デモのために装置を確保するのも容易なことではない。通常は、実験室で使われている装置をデモに流用することになるので、いつでも自由に持ち出せるというわけにはいかないからだ。こうした問題を回避するために、訪問先の顧客に、必要な装置を用意してもらうという方法も考えられる。つまり、ICの評価用ボードと必要なソフトウェアだけを持参するという方法である。しかし、仮に計測器のメーカー/型番を指定し、そのとおりの物をそろえてもらうことができたとしても、デモの環境として適切に動作するとは限らない。実際には、計測器の設定が異なったり同期のタイミングなどの問題があったりで「必ず現地でのデバッグ作業やチューニング作業が必要になる」(板垣氏)という。仮に、そうした作業がデモの開始時間までに収束しなかったとしたら、顧客に対して悪い印象を与えてしまうことは避けられないだろう。

設計・開発担当の板垣氏

 

1人で持ち運べるデモ環境、スペースと重さが1/10に

図2. PXIによって構築した保護用IC向けのデモ環境。[CEATEC JAPAN 2015]で展示された。ディスプレイの右側にあるPXIシャーシに必要なモジュールが組込まれている。

上述した課題を解決するために選ばれたのが、NIのPXI製品である。PXIであれば、小型のシャーシに設けられたスロットに、必要に応じてモジュールを組み込むことで、所望のシステムを容易に構築することができる。各モジュールはボックス型計測機と同じ機能をもっていて、シャーシ内の組込コントローラからソフトウェアによって制御することが可能だ。板垣氏によれば「この利便性が採用の決め手になった」のだという。「保護用ICのデモには、ICを動作させるための電圧や電流を供給し、ICの出力などの信号をモニターできる環境が必要になる。そして、それらが持ち運びできるように一体化されていなければならない。PXIを採用したことで、OTPメモリへのデータの書き込み機能を含めて、要件を満たす環境を実現することができた(2)」と同氏は語る。では、そのシステムは具体的にはどのようにして開発したのだろうか。

まず、ハードウェアについては、数多く用意されたモジュール製品の中からデモに必要な要件を満たすものを適切に選択すればよい。一方、ソフトウェアについては、NIのPXI製品を使用する場合、通常はグラフィカルシステム開発ソフトウェアであるLabVIEWを使用する。ただ、LabVIEWのVIは、LabWindows/CVI、C++、Visual Basic、C#/.NET、JavaなどLabVIEW以外の言語で記述したプログラムから呼び出すこともできる。

そのため、LabVIEW以外の言語でソフトウェア開発を行うことも可能である。実際、このデモ用のシステムは、Microsoft .NET環境でC#を使用して開発された(3)。開発を担当した電池IC技術課の岡淵 良久氏は、「従来、当社は各製品向けのアプリケーションをMicrosoft .NET環境でC#を使用して開発してきたため、C#に対する習熟度が高く、過去の資産も活かせるからである。PXIではLabVIEWだけでなくC++、C#、VB.Netなど、各種テキスト言語もサポートしているので、このような選択も柔軟に行える」と述べている。そのうえで同氏は、「従来のボックス型計測器を使用し、GPIBなどをベースとして同様の機能を実現することも可能だが、装置ごとに仕様がまったく異なることから、それぞれについて調査/学習を行わなければならない。それに対し、PXIはプラットフォームとして仕様に一貫性があるので、開発作業がスムーズに進む」と語る。

図3. C#で構築されたデモンストレーション用のモニター画面

山口氏も「必要な機能の詳細はモジュールやソフトウェアの変更によって実現するわけだが、PXIの場合、プラットフォームというかたちであらかじめ単一のシステムが非常にコンパクトに実現されている。また、PXIはシャーシ内に同期用の回路が組み込まれているので、複数の型計測機を同期する際の複雑な配線やタイミングの問題も改善される。このことは、当社にとって非常に大きなメリットだった」と述べている。「仮に、PXIを利用することなく、今回のデモ用の環境と同等の可搬性を実現するとしたら、専用のシステムを構築するしかない。

開発を担当した岡淵氏

つまり、外部装置は単一の電源装置など最小限のレベルに抑え、複数種の電圧をはじめとする必要な条件を作り出す機能は、すべて専用のボード上に実装しておくということだ。実際にそのようなシステムを構築するとしたら、半年程度の期間を費やすことになるだろう。PXIを採用したことで、デモ用の環境として必要な要件を満たしつつ、必要な作業をソフトウェア開発に集約することができた。その結果、システム構築に必要な期間をわずか1週間程度に抑えることが可能になった」と板垣氏は語る。このようにしてデモ用の環境を実現したことにより、ボックス型計測器を使用する場合と比べて、スペース、重量を約1/10に抑えることができた。このシステムを使用した最初のデモは、海外の顧客に対して披露することができたという。板垣氏は、「従来は数人掛かりで運搬しなければならなかったのに、PXIベースのシステムであれば1人でそのまま持ち運べる。そのまま持ち運べるということは、訪問先でもシステムが安定して動作するということを意味する。つまり、従来のように現場でデバッグ作業を行う必要もない。従来は不可能であった海外でのデモが行えるようになったことが最大の成果だ」とそのメリットを強調する。さらに、同氏は「顧客に対するデモは当社にとって非常に重要だ。特に、スマートホンやタブレット端末の市場はさまざまな面で動きが速いし、顧客も忙しくてなかなか時間がとれる状況にない。したがって、ピンポイントのタイミングで効果的なデモを実施することが極めて重要になる。NIが迅速なサポートを提供してくれたので、そうしたタイミングで顧客にデモを披露することができた」とコメントしている。

新製品の評価フェーズへの展開

今回のPXIベースのシステムは、もともとは顧客を訪問してデモを行うための環境として構築された。ただ、デモを実施する場はそれだけに限定されるわけではない。写真2、写真3に示したように、ミツミ電機はこのシステムを使用して「CEATEC JAPAN 2015」でもデモを披露している。「当社に限らず、ICのメーカーはさまざまな展示会に製品を出展している。しかし、展示会の会場で実際の動作を示している例は決して多くはない。ボックス型計測器が何台も必要になることが、デモを行ううえでのネックになっていたからだ。当社の場合、PXIを採用したことで、展示会の会場でも実際の動作を示すことができるようになった」(板垣氏)という。

また、板垣氏らは、開発したシステムを実験室ではなく、設計事務所に置いている。「PCの横に置いておき、何かあればちょっとした実験/評価/確認などをその場で行っているし、顧客に提供するサンプルの評価にも使用している」(板垣氏)という。当然のことながら、PXIベースのシステムは、デモだけでなく、新製品の評価にも使用できるということだ。板垣氏は、「PXIであれば、ソフトウェアを変更するだけでさまざまな評価の条件に対応できる。また、ハードウェアの変更が必要な場合には、豊富に用意されたモジュール製品の中から適切なものを選択すればよい。このような柔軟性を備えていることから、当社は今後、ほかの製品、ほかの部署でもPXIをさらに活用していきたいと考えている」として話を締めくくった。

 

 本事例の詳細:NI PXIを使用してLiイオン電池保護用ICのデモ環境を構築、従来比で1/10のサイズを実現

 

 

PXIとは?

本事例で採用されたPXIは、計測/オートメーションシステム用の堅牢なPCベースプラットフォームです。PXIを採用するメリットなどを詳しくご紹介しています。

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