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南極の過酷な環境で稼働する電波観測システム、CompactRIOで堅牢性と柔軟性を確保

 

南極の昭和基地では、宇宙科学、気象学、地質学、生物学などの研究のベースとなるさまざまな観測が行われている。そのうちの1つが、主に地球の磁気圏についての研究を実施するために行われている自然電波の観測だ。数年前まで、その観測を行うためのシステムはアナログ技術のみを使用して構築されていた。最新技術からの恩恵を享受するために、それらのシステムのデジタル化を図りたいと考えるのは自然な流れだ。しかし、最低気温が-30℃にもなる極寒の地では、一般的なシステム要件とは異なる制約がいくつも存在した。そうした課題を解決するために選ばれたのが、ナショナルインスツルメンツ(NI)のCompactRIOである。なぜCompactRIOが選ばれ、どのようにしてそれらの課題を解決したのか。電波観測システムの開発に携わった極地研究所の岡田 雅樹氏にお話をうかがった。

地球磁気圏の研究に向けて

南極・昭和基地の起源は昭和30年代にまでさかのぼる。以降、同基地では、大気や氷床、生態系、超高層大気、オーロラ、地球磁場などに関する総合的な研究に向けてさまざまな観測が行われている。現在、それらの研究活動の中心的な役割は、国立極地研究所の4つの研究グループが担っている。そのうちの1つが「宙空圏研究グループ」である。同研究グループが対象とする宙空圏とは、高度10km以上の成層圏から太陽系の惑星空間までの範囲のことだ。この宙空圏では、太陽から吹くプラズマの風である「太陽風」と、地球の磁場の勢力圏である「磁気圏」、ならびに電離層が相互に作用することによって、さまざまな現象が発生する。宙空圏研究グループは、そうした現象そのもの、ならびに各現象の発生メカニズムの解明を目指して研究を行っている。

極地研究所 極域データセンター 副センター長の岡田 雅樹氏は、この宙空圏研究グループの一員である。2007年から2009年の第49次南極地域観測隊越冬隊として昭和基地に赴任するなど、何度も南極の地を訪れている。その同氏が行っている活動の1つが、オーロラ帯(オーロラが出現する南北磁気緯度60~70度の帯状の領域)における自然電波の観測だ。その目的を同氏は次のように語る。

「宙空圏で発生する現象として有名なオーロラは、太陽や地球の磁気圏で発生した高エネルギー電子が地球の大気に当たって光を放つ現象だ。この発光メカニズムはよく知られているが、その背景にある磁気圏についてはまだ不明な点が多い。オーロラを発光させる電子やイオンなどは、地球の磁場に巻き付くように運動する。そのときに発生する電波を調べることで、発生原因である電子のことや、磁気圏の形状/構造などを調べることが可能になる。われわれの研究では、磁気圏全体の構造を知ることを大きなターゲットとしている。」

国立極地研究所 極域データセンター 副センター長/准教授 博士(工学)の岡田 雅樹氏

国立極地研究所 極域データセンター
副センター長/准教授 博士(工学)の岡田 雅樹氏

宙空圏を対象とする研究者らは、昭和基地でかなり以前から電波の観測を行っていた。ただ、5~10年くらい前まではアナログ技術で構築したシステムを使って観測を実施していたという。取得した波形を人間が直接目視したり、写真を撮ったりといった方法にとどまっていたのである。そうしたアナログの観測手法をデジタル化すれば大きなメリットが得られることは明らかだ。例えば、リアルタイムかつ継続的に電波の観測結果をデジタルデータとして取得すれば、非常に細かい周波数解析や変動解析が行えるようになる。また、デジタルデータを長期的に収集することで正確な統計を得ることができるし、長期的な変動も把握しやすくなる。さらには、従来の手法では見落とされる可能性のあった現象も漏れなく精査できるようになるであろう。このような背景から、岡田氏は電波観測システムのデジタル化に向けた開発に取り組むことにした。

 

‐30℃の過酷な環境、求められるのは完全な自動計測

電波観測システムでは、1つの周波数帯だけを対象として信号の計測を行うわけではない。以下のように、多くの信号を対象とする。

  • VLF信号:周波数が3kHz~30kHzの電波信号。サンプリング周波数は最大200kHz(5チャンネル)
  • VLF検波信号:サンプリング周波数は10Hz(5チャンネル)
  • ULF信号:周波数が300Hz~3kHzの電波信号。サンプリング周波数は10Hz(3チャンネル)
  • リオメータ(Riometer)信号:電離層の状態をモニターするための信号。サンプリング周波数は10Hz(1チャンネル)
  • ELF信号:周波数が3Hz~30Hzの電波信号。サンプリング周波数は1kHz(2チャンネル)
  • IRIG信号:GPSからの時刻信号。サンプリング周波数は1kHz(1チャンネル)

電波観測システムでは、5種類の電波信号をサンプリングして継続的にデジタルデータを取得するとともに、各号データと、IRIG信号を使用して得た時刻情報とを関連付ける処理を行う。加えて、夏季に使用する太陽電池の起電力の状態を監視したり、バッテリの蓄電量を監視したりといった具合に、稼働状況を管理するためのデータも取得しなければならない。こうした基本的な機能を実現するとともに、開発する電波観測システムでは、以下に挙げるような重要な要件を満たさなければならなかった。

  • 極低温の環境において、少ない消費電力で長期間の自動測定が行えること
    南極では、最低気温が-30℃にもなる。このような過酷な環境で長期間、安定して稼働するシステムでなければならない。また、発電機(化石燃料を使用する対応のもの)などから発生するノイズの影響を避けるために、システムは昭和基地から5kmほど離れた西オングル島に配備する。メンテナンスなどの目的で頻繁に訪れるのは困難なので、完全に自動化されたシステムを開発する必要がある。電力については太陽光発電と風力発電を併用するが、冬季は太陽が出ないので太陽光発電は使えないし、バッテリを充電しに行くことも難しい。したがって、風力発電だけで電力をまかなえるレベルの低消費電力のシステムとしなければならない。
  • 自動測定したデータを、無線LANを介して昭和基地まで転送できること
    取得したデータは、無線LAN(Wi-Fi)や衛星回線のような低コストの手段を使って昭和基地まで転送する必要がある。ただ、その場合の帯域幅には限界があり、すべてのサンプリングデータを転送するのは現実的には不可能だ。そこで、観測データとして適切なレベルを維持できるよう配慮しつつ、データを間引いたり、加工したりする処理を施して転送量を削減する必要がある
  • 変化するニーズに対して、柔軟に、かつ短期間で対応できること
    電波の観測に対するニーズ(測定パラメータ)は少しずつ変化することが考えられる。したがって、それに対応できるような柔軟なシステムでなければならない。加えて、開発期間にも制約がある。越冬隊は毎年1回、日本を出発し、新しい機材を昭和基地に運ぶ。次に機材を運ぶことができるのは1年後なので、このサイクルに合わせて準備を行わなければ観測システムの進化が滞る。このサイクルを満たすには、実際の開発期間を1~2ヶ月ほどに抑える必要がある。
     

 

堅牢性と柔軟性をもたらすCompactRIO/LabVIEW

 

上述したような多くの課題を解決するために岡田氏が選択したのが、再構成が可能な組込制御・集録システムであるNI CompactRIOだ(図1)。低消費電力で、-30℃でも安定して動作するといった条件を満たすシステムを探した結果、同製品に行き当たったという。「いちばん期待していたのは南極の過酷な環境でも安定して稼働してくれることだ。CompactRIOは低消費電力の製品であり、-40~70℃の温度範囲で動作することが保証されている。実際に開発したシステムを南極で稼働させた結果を見ても期待どおりのものだった」と岡田氏は述べている。

CompactRIOをベースとした電波観測システムは、図2のように構成した(図中の品番や細かい数値などは最新のシステムとは異なる)。図の左端に並ぶ各信号の先には、実際にはアンテナとアンプ回路が存在する。アンテナで受信した電波をアンプ回路で増幅し、CompactRIOのアナログ入力モジュールに入力する。各信号を同時にサンプリングするとともに、GPSからの時刻信号(IRIG)を利用し、各データに対して数ミリ秒から数マイクロ秒の精度の時刻情報を関連付ける。そのうえで、周波数解析の対象とするデータ(VLF信号、ELF信号)は無線LANを介してリアルタイムで昭和基地に送信する。昭和基地のサーバでは、それらのデータを基にスペクトル図の画像データを生成し、衛星回線で日本に送信して研究者に配布する。これが基本的な処理の流れである。

図1. CompactRIOで実現した電波観測システム

図1. CompactRIOで実現した電波観測システム

図2. 電波観測システムのブロック図

一方、ULF信号やリオメータ信号は、10Hz以下のゆっくりした現象に対応するものであり、強弱だけを判別できればよい。そのため、サンプリング周波数は低くてかまわないのだが、現象を把握するためには長期間にわたってデータを取得し続ける必要がある。これらのデータは無線LANの帯域幅を考慮し、基地への転送は行わないことにした。その代わりに、すべてのデータをSDカードに保存しておき、後ほど回収する方法をとる。また、ELF信号についてはリアルタイムでの転送も行うが、ブリザードなどの影響で無線LANが使えなくなっても対処できるよう、SDカードにも同時に保存することにした。

こうした細かい処理や制御は、すべてグラフィカルシステム開発ソフトウェアであるNI LabVIEWで作成したプログラムで実現している。岡田氏はもともとコンピュータシミュレーションを専門とするので、テキストベースのプログラミング言語であるFortranやC言語に習熟していた。そのため、「当初はグラフィカルな操作で作業を進めるLabVIEWの開発スタイルには戸惑いを覚えた」と述べている。ただ、トレーニングコースを受講し、実際に開発作業に携わってからは、「慣れてしまえば、非常に楽だ」と感じているという。LabVIEWを使うメリットについて、同氏は次のように語る。

「この観測システムの構築にあたっては、ホストPC用のプログラムと、FPGAを搭載するCompactRIOコントローラ用のコードという性質の異なるものを開発しなければならなかった。しかし、LabVIEWを使用すれば、その単一の環境上で、一貫してグラフィカルな操作を行うだけで両方とも開発できる。特に最新のFPGAを使っているのにもかかわらず、FPGAそのものやHDL(ハードウェア記述言語)に関する知識が不要であることは大きなメリットだ。しかも、多数のチャンネルのタイミング制御、ネットワーク連携、データの処理や集録も同様の操作で容易に実現できる。このことには驚きを禁じ得なかった。また、豊富に用意されているサンプルは、LabVIEWによるプログラミングについて学ぶ際に役立つし、実際のシステム開発にも大いに活用できる」。

加えて、岡田氏は「実用化に向けていちばん問題だったのは、無線LANによるデータ転送の部分だった」とも述べている。昭和基地までデータ転送を行うための手段を検討した結果、岡田氏はWi-Fiを選択した。そのデータ転送レートは最大でも10Mbps(メガビット/秒)で、通常は3Mbps程度しか得られない。先述したとおり、転送するデータの量を削減するには、何らかのかたちでデータを間引いたり、加工したりする必要がある。しかし、その方法を誤ると、重要なデータが欠落してしまう恐れがある。「データに対する処理は、研究者の目で適切に見極めを行ったうえで適用しなければならない。ここで誤った判断をすると、観測データとして使い物にならなくなってしまう」(同氏)。このことが大きな懸念材料だったという。「どのような処理を適用するかは、ある程度、試行錯誤を重ねながら決定しなければならなかった。それにあたっては、LabVIEWのグラフィカルプログラミングの手法が非常に役に立った。C言語などテキストベースのプログラミング言語を使用していたとしたら、非常に煩雑な作業が必要になっていただろう」と岡田氏は述べている。

さらに、岡田氏は「汎用計測器を組み合わせてシステムを構築する方法とは異なり、CompactRIOとLabVIEWをベースとしたシステムでは、あらゆる部分を完全に自分でコントロールすることができる。この点が最大のメリットだ」とも指摘している。「CompactRIO/LabVIEWをベースとする場合、自分自身がシステムの中身についてよく理解した状態で、自分自身が実現したいようにカスタム開発を行うことができる。例えば、データ量を減らすための処理についても、自分自身が完全に中身を把握することができない既製の方法などを適用してしまうと、観測データとしての信頼性が低下してしまう。データ処理のすべてを自分自身で組み立てられるソリューションは、ほかには存在しないのではないか」と同氏は語る。

岡田氏は、以上のようにして構築した電波観測システムを西オングル島に配備した(図3)。2012年からは、このシステムを使って実際にデータを取得している(図4)。その後も、例えば観測する電波の周波数帯を変更したり、時間の分解能を少し上げたり、測定結果のノイズレベルを下げるために平均化処理を導入したりといったニーズに応じてバージョンアップを重ねている。そうした変更に対応するための開発期間は、CompactRIOとLabVIEWによって高い柔軟性が得られていることから、1~2ヶ月に抑えることができているという。

図1. CompactRIOで実現した電波観測システム

図3. 電波観測システムを配備する小屋の外観

図1. CompactRIOで実現した電波観測システム

図3. 電波観測システムを配備する小屋の室内

電波観測システムで取得したスペクトル図

図4. 電波観測システムで取得したスペクトル図

 

オーロラ画像の連続取得への展開

岡田氏らの研究グループでは、無人観測システムの構築を1つのテーマとし、引き続き取り組みを行っている。「太陽電池関連の装置、風力発電機、アンテナ類、そして今回開発したCompactRIOベースのシステムを1セットとして配備すれば、基地から何km離れたところでも無人で電波の観測が行えるようになる。現在は西オングル島の1ヵ所だけだが、同じシステムを500km東、500km西、内陸部に1ヵ所ずつといった具合に展開していきたいと考えている」(岡田氏)という。

また、電波の観測に加えて、オーロラの画像を継続的に収集できるようにすることも計画している。これについて岡田氏は次のように述べている。

「例えば、500kmごとにオーロラの画像を収集するシステムを配備して1200km程度の視野を確保すれば、非常に大きなオーロラがどのように動いているのかということを把握できるようになる。このことも、磁気圏の構造を把握するという目標につながる。昭和基地から500km離れたところには、年に1回くらいしか行くことができないので、1年間、できれば5年間くらい無人でデータを継続して取得できるようにしたい。そのうえで、観測したデータを衛星回線で送れるようなシステムを構築することを目指している。その際には、電波観測システムの開発で蓄積した技術を活用したい。超極寒の環境に対応でき、消費電力が少なく、入力のバリエーションが多いといったCompactRIOの特徴を活かしつつ、必要な要素を追加して環境を構築していくというアプローチを想定している。」

 本事例の詳細:南極の過酷な環境で稼働する電波観測システムをCompactRIOで構築

 

CompactRIOとは?

NI LabVIEWグラフィカルプログラミングツールでプログラムし、様々な組込制御・監視アプリケーションに使用することができます。

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