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富士通が基地局向けORI仕様の相互運用性を実証、実験には自社製RRHとNI製BBUシミュレータを採用

周知のとおり、携帯電話の基地局では、旧来のマクロセルからスモールセルへと方式の移行が進んでいる。そのスモールセルの構成要素となるのがBBUとRRHである。両者の間は光ケーブルで接続されるが、そのインタフェース仕様としてはCPRIが事実上の業界標準となっていた。そうしたなか、通信事業者の主導の下、インタフェースの新たな標準仕様としてETSI(欧州電気通信標準化機構)によってORIがリリースされた。ORI仕様の策定に参画していた富士通は、同仕様に準拠するRRHの開発を終えるとともに、同じく同社が開発したBBUとの接続が問題なく行えることを確認した。しかしながら、自社が開発したRRHと他社が開発したBBUとの相互運用性を実証することが、ORIの普及に向けては不可欠であると同社は考えた。そのためのパートナーとして選ばれたのがナショナルインスツルメンツ(NI)であり、相互運用性の検証に使用されたのがPXIをベースとするNI製のBBU側システムである。ORI仕様が策定された背景や、その意義、そしてPXIベースのシステムがもたらすメリットについて、富士通 ワイヤレスシステム事業部の3氏にお話をうかがった。

 

目指すのは、ベンダーロックインの回避

旧来、携帯電話の基地局装置は、無線部とベースバンド部を1つの筐体に収める一体型のシステムとして構成されていた。しかし、現在では、無線部であるRRH(Remote Radio Head)とベースバンド部であるBBU(Base Band Unit)の2つに分割する方式の採用が進んでいる。RRHの構成要素はRFアンプやA/Dコンバータ、D/Aコンバータ、直交変復調処理用のロジック回路などである。一方のBBUは、ベースバンド変復調処理や制御処理などを担うロジック回路で構成される。このような分割を行い、図1に示したように、1台のBBUに対して複数のRRHを光ケーブルで接続する方式が主流になったということである。「スモールセル」方式では、従来の基地局装置よりも大幅に小型化されたRRHを、より多く、より広範に、あるいはより高い密度にといった具合に高い自由度で配備することができる。それにより、加入者数の増加やカバーエリアの拡大、スループットの向上などに対応することが可能になる。

図1. BBUとRRHを組み合わせて構成した基地局システム(画像提供:富士通株式会社)

BBUとRRHとの間のインタフェースについては、2つの標準仕様が存在する。1つは事実上の業界標準とも言われているCPRI(Common Public Radio Interface)である。CPRIでは、物理層に近い低層(low-layer)の仕様だけを定義しており、その上位層に当たるRRH/BBUの制御信号などについては厳格には定義されていない。つまり、ハードウェアの部分を共通化することで、大量生産によるコスト効果を得ることが主な狙いだ。一方、ソフトウェアで対応が可能な上位層については、各ベンダーが高い自由度で機能拡張などを行えるようになっている。

無線インフラ向けの事業を展開する富士通は、W-CDMAやCDMA 1X/2000、LTEなどをターゲットとして、2004年ごろからCPRIに準拠するBBU/RRHを製品化してきた。その同社が現在注目しているのが、もう1つのBBU‐RRH間のインタフェース仕様であるORI(Open Radio Equipment Interface)だ。

富士通 ネットワークプロダクト事業本部 ワイヤレスシステム事業部
事業部長の谷口正樹氏(中央)、同事業部シニアマネージャーの山口和彦氏(右)、検証実験を担当した同事業部の宮本健史氏(左)

ORI仕様では、低層だけでなく、制御信号などの上位層も含めた標準化を目指している(低層の仕様についてはCPRIの仕様をほぼそのまま採用している)。では、CPRIという事実上の業界標準が存在するのにもかかわらず、なぜORIという新たな仕様が策定されることになったのだろうか。

現在では、大量のトラフィックに対応するために、スモールセルへの移行を図るだけでなく、キャリアアグリゲーションや、MIMO(Multi-Input Multi-Output)、セル間干渉制御(eICIC)、セル間協調送受信(CoMP)など、新たな技術が次々に開発/導入されている。このような状況の下では、それぞれの技術に対応できるよう、多様なRRHが必要になると考えられる。そのとき問題になるのが、BBU‐RRH間のインタフェース仕様として広く採用されているCPRIの存在だ。この点について、富士通 ネットワークプロダクト事業本部 ワイヤレスシステム事業部の事業部長を務める谷口正樹氏は次のように述べている。

「CPRIでは、低層以外の部分については個々のベンダーが独自の仕様を採用することになる。その場合、通信事業者(オペレータ)は、その独自仕様が他社に公開されない限り、BBUとRRHを同じベンダーからしか調達することができない。つまり、完全な“ベンダーロックイン”が発生してしまうということだ。このような状況では競争原理が働かず、低コスト化が期待できなくなる」。

富士通 ネットワークプロダクト事業本部 
ワイヤレスシステム事業部
事業部長 谷口正樹 氏

このようなベンダーロックインを避けたいという動機から、事業者らの主導の下、ETSI(欧州電気通信標準化機構)によるORI仕様の策定に向けた活動が始まった。この動きに賛同した富士通は、2010年にETSI ORI ISG(Industry Specification Groups)が発足した当初から、そのメンバーとして仕様の策定に参画している。装置ベンダーである同社としても、このような標準化と仕様の普及が進めば、ビジネスチャンスがより拡大すると考えたからである。では、ORIが普及することによって、実際にはどのようなメリットが期待できるのだろうか。

ワイヤレスシステム事業部 シニアマネージャー 山口 和彦 氏

まず、事業者の立場から見たメリットがある。ORIが普及すれば、各事業者は、それぞれの戦略や、基地局を設置する際の条件に適したRRHとBBUを、それぞれ別のベンダーから調達してシステムを構築することができる。「インタフェース仕様を完全に規定したORIに準拠するRRH/BBUであれば、どのベンダーの製品であっても“プラグ&プレイ”を実現できる」(谷口氏)からだ。結果として、基地局を展開するうえでの自由度が格段に向上し、さまざまなサービスを提供しやすくなる。また、周波数資源などに対する投資に対応して迅速にサービスを導入することが可能になる。独自仕様ではなく、標準仕様に基づいて多様なベンダーが多様なRRH/BBUを供給していれば、一から開発を行わなくても、対応周波数などの面で異なる要件に対応する既存の製品を、即座に導入/運用できる可能性が生まれるからだ。

一方、基地局装置のベンダーにとっては、RRHとBBUのうちどちらか単独で市場に参入できるというメリットがある。この点について、富士通 ワイヤレスシステム事業部のシニアマネージャーを務める山口和彦氏は次のように述べている。

 

 

 

 

「特にRRHについては、各ベンダーが得意とする技術を生かした製品を開発できるようになる点が大きい。富士通のRRH製品の場合、小型で消費電力が少ないという特徴を備える。当社以外にも、低コスト化が得意なベンダーや、高機能化に重点を置くベンダーなどが存在し、それぞれがRRHの市場に参入できる可能性が生まれる。実際、事業者としては、そうした特徴を持つ製品を適材適所に導入したいと考えている。機能/性能/価格の面でさまざまな特徴を持つ製品が市場に供給されることにより、競争原理が強く働き、より良い製品の誕生が期待できるようになるはずだ」。

 

普及のカギは「相互運用性の実証」

ORIを推進する事業者や富士通のようなベンダーにとっていちばんの課題は、「ORIの仕様には、モレやヌケなどは本当に存在しないのか?」ということだった。こうした問題点があった場合、その部分がベンダーごとに独自の仕様(独自の実装)として存在することになってしまい、相互運用性を確保できないからだ。

そこで富士通は、ORI仕様の相互運用性を確認するために、同仕様に準拠するBBUとRRHを開発して両者の接続を試みた。当然のごとく、両者は問題なく接続することができた。しかし、同一のベンダーが開発したBBUとRRHで接続実験に成功しても、「ORI仕様はプラグ&プレイを実現できるだけの相互運用性を備えている」ということの証明にはならないと同社は考えた。仕様書は、コンピュータ言語のような厳密なもので書かれているわけではなく、自然言語で記述される。そのため、ある程度のあいまいさが存在し、文章の解釈は読み手に依存することになる。モレやヌケといった大きなレベルの問題はないにせよ、BBU側とRRH側で仕様に関して同じように解釈を誤っていたとしたら、問題なく接続できてしまうことになる。そのような事態は、同一のベンダーがBBUとRRHの両方を開発した場合に、より起こりやすいと考えられる。そうした可能性を排除するには、まず2社のベンダーが個々にORI仕様を解釈する。続いて、それぞれの解釈に基づき、1社がBBUを実装してもう1社がRRHを実装する。ORI仕様の相互運用性を実証するには、そのようにして開発されたBBUとRRHが問題なく接続できることを示さなければならなかった。

 

PXIをベースとして、ORI準拠のRRHテスタを実装

上述した課題を解決するためのパートナーとして選ばれたのがNIである。NIは、その時点ですでにCPRI対応のRRHテスタ(BBRシミュレータ)を提供していた。このRRHテスタは、PXIをベースとするシャーシ、コントローラ、高速シリアルモジュール、RFアッテネータ、そしてベクトル信号トランシーバ(VST)で構成されている(図2)。VSTはベクトル信号発生器とベクトル信号アナライザの機能を併せ持つため、このテスタ単体で、RRHに対して双方向(上り/下り)での特性評価が行える。「このCPRI対応のRRHテスタの存在を知ったことから、NIであれば、ORI仕様に準拠したRRHテスタにも対応できるのではないかと考えた」(谷口氏)ということだ。

図2. RRHテスタの構成。NIは、FPGAのプログラミングを含むソフトウェアレベルの改変を行うことで、ORI仕様に準拠したRRHテスタを開発した。

打診を受けたNIは、CPRI対応のRRHテスタを改変することで対応した。具体的には、ORI仕様(Release 1)に基づいて実装(FPGAのプログラミングを含むソフトウェアレベルの改変)を行い、それをORI対応のRRHテスタとして富士通に提供した。ORI仕様に定められた機能やRF特性の評価を行った結果、富士通製のRRHとNI製のRRHテスタを問題なく接続できることが確認できたという。谷口氏は、「この実験では、異なる2社が1つの仕様に基づいてそれぞれRRHとBBUの実装を行った。それらが問題なく接続できたということは、ORI仕様にはモレやヌケがなく、相互運用性が確保されることを実証できたということだ」と語る。

また、実際にNIと共に接続試験を担当した富士通 ワイヤレスシステム事業部の宮本健史氏は次のように述べている。

「当初、実際に接続できるようになるまでには、何らかの試行錯誤が伴うだろうと考えていた。しかし、実際にはRRHテスタを搬入してから、わずか半日で接続に成功することができた。今回の経験から、商用ネットワークでORIを採用した場合にも、非常に短い期間で装置を配備できると考えられる。ORI仕様に準拠したRRH/BBUへの移行は、容易に実現できるということを証明できたのではないか」。

この事例では、相互運用性を実証するためのソリューションとしてNIのRRHテスタが活用されたわけだが、実際に同テスタを使用した結果、さらなる可能性が見えてきたという。それは、「ORI対応のRRHの開発段階、量産段階にNIのRRHテスタを導入することで、より大きな効果が得られるのではないか」というものである。

RRHの開発段階では、スペクトラムアナライザ、RF信号発生器、パワーメータなど、無線特性を評価するためのさまざまな測定器が必要になる。しかも、測定項目ごとに測定器の構成を変更しなければならないため、測定環境の構築は非常に煩雑な作業となる。また、開発段階では、基本機能/特性の検証に加えて、エラーケースのテストなども実施しなければならない。そのためには、ソフトウェアベースでさまざまな条件を作り出せるBBUシミュレータを使用したい。しかしながら、BBUシミュレータを自社で開発するには多大な工数が必要になる。それに対し、NIのRRHテスタであれば、測定器の機能とBBUシミュレータの機能の両方を利用できる。「1つのシステムでRRHのあらゆる評価が行えるので非常に効率が良い」(山口氏)という。

ワイヤレスシステム事業部 宮本 健史 氏

また、あらゆる観点から製品の検証を行う開発段階とは異なり、量産検査では適切に製造が行われたかどうかを確認するだけだ。目的が異なるため、それぞれの段階に適した測定システムも当然異なる。つまりは、開発向けと量産向けに測定システムを2種類構築しなければならず、多大な工数とコストが必要になることが潜在的な課題となっていた。この点について、谷口氏は以下のように述べている。

「NIの製品のように汎用性が高く、カスタマイズが容易なシステムであれば、開発段階と量産段階の両方に適用できる。両段階で同じ測定器を使用するのであれば、開発段階で検証に使った数々のスクリプト類(テスト用のプログラム)のうち、出荷検査に必要なものだけを選択してそのまま再利用することが可能だ。コストの削減とタイムリーな供給という観点から、その効果は非常に大きい。事業者によるORIの採用が進み、当社が同仕様に準拠するRRHを量産出荷するということになれば、開発時に使用する検証システムとしてだけでなく、量産用の検査装置としてもNIのRRHテスタを採用する可能性は非常に高い」。

さらに、NIのソリューションは、通信市場や事業者に対してもメリットをもたらす可能性を持つという。山口氏は「BBU‐RRH間のインタフェースがオープン化されたら、その市場に参入したいと考えるベンダーは多いはずだ。当社の場合、BBUも製品化しているので、シミュレータを開発できるだけのノウハウも蓄積しているが、RF技術を専門とする企業などはBBUの開発ノウハウまでは必ずしも有していないだろう。そうしたベンダーにとっても、BBUシミュレータの開発を不要にするNIの製品は非常に有用なものだと言える」と語る。そのうえで同氏は、NIのソリューションのもう1つの意義を以下のように説明した。

「同一のベンダーからBBUとRRHをセットで調達するのとは異なり、異なるベンダーの製品を採用する場合には、その相互運用性についてはある程度、事業者自身が保証していかなければならない。今回の事例により、ORIを導入した際に何らかのトラブルが生じたとしても、それを解決するための測定環境がすでに整っていることも併せて示された。このことから、事業者は安心してORIの導入を進められるようになるはずだ」。

 

普及活動に注力

富士通は、「ORIの標準化/普及が進んだとしても、CPRIとORIの両方の事業を継続していく」(谷口氏)というスタンスをとっている。すべての事業者がすぐにORIに準拠した製品を必要とするわけではないし、完成したシステムとしてBBUとRRHの両方を供給してくれるほうがありがたい事業者も存在するからだ。ただ、そうした事業者も、CPRIからORIに移行していく可能性があるので、「当社としてはORIによってビジネスチャンスがより拡大すると見ている」(谷口氏)という。

ORI仕様のRelease 1は、2012年8月に公開された。以降、機能追加を施した新版が順次リリースされている。2015年2月の時点では圧縮機能も備えるRelease 4が公開されている。こうした流れに沿って、富士通は基地局製品のベンダーとして、事業者がより良いBBU/RRHを高い自由度で選択できるよう、多彩な用途に対応した製品を開発していく方針だ。またORIの普及活動の一環として、実機検証などを通し、すでに実用に耐えうる製品が完成していることを市場/事業者に対して示していく。「NIには、本事例のRRHテスタのように、開発/製造/配備に活用可能な測定環境もすでに提供されていることを、当社のパートナーとしてアピールしてくれることを期待したい」と山口氏は述べた。

 本事例の詳細:富士通が基地局向けORI仕様の相互運用性を実証、実験には自社製RRHとNI製BBUシミュレータを採用

 

 

PXIとは?

本事例で採用されたPXIは、計測/オートメーションシステム用の堅牢なPCベースプラットフォームです。PXIを採用するメリットなどを詳しくご紹介しています。

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